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熱交換器型第一種換気での合理的な給排気口の配置と換気方法(2/2)

当初は給排気口の目詰まり、熱交換素子のカビなどで苦労しましたが、点検、清掃方法を確立した後は、それなりに満足しています。
全館連続暖房を行うのであれば、生活環境を改善し、エネルギー消費を削減する熱交換器型第一種換気は必須と思います。冬だけでなく、冷房時の室内湿度を下げる効果もあり、湿度が高い日本には有効な設備です。夏が高温多湿になる米国の南部でも採用されています。
エネルギー価格が安く、地球温暖化問題が知られていなかった時代と違い、全館連続暖房の前提条件は「高気密高断熱」です。よく使われる表現ですが、高気密高断熱の定義はありません。時代、国、適応地域によって違います。
私個人の定義は「現行省エネ基準の建物で、部分間歇暖房をした時より低い暖房負荷で全館連続暖房を実現できる気密性能+断熱性能+換気性能」です。
断熱性能を良くしていくと、換気の熱損失の比率が増えます。断熱性能のさらなる改善より、換気の熱損失を削減した方が良くなります。換気による熱損失を削減すると、漏気による熱損失の比率が増え、換気による熱損失のさらなる改善より、気密性能を改善した方が良くなります。
建物のエネルギー性能はこの三つの要素で決まりますが、バランスも重要です。
断熱性能が極めて優秀でも、冷たい外気が直接室内に入ってくれば決して気持ちよくありません。断熱性能と換気性能のバランスが悪いと言う事です。断熱性能と換気性能が良く、気密性能が悪い場合は、冷たい隙間風に悩まされます。このバランスは外皮の部位にも当てはまります。断熱性能が高い外壁と、アルミサッシの組合せは典型的な例です。アルミ枠の温度が低い為、結露が発生します。ガラスの温度が低い為、窓近辺は寒く感じます。掃出し窓の場合は窓周辺の床が冷えてしまいます。

UA値(外皮断熱性能)

UA(W/m2/K: 外皮平均熱還流率)で表されます。外気に接した床、壁、天井(又は屋根)、窓からの熱損失を外皮合計面積で除したものです。世界的に最も一般的な断熱性能の表し方です。各部位の性能のバランスが重要なので、UAだけでなく、部位ごとの最大熱還流率も定義されています。省エネ基準とZEH基準における東京の基準値はそれぞれ0.87と0.60です。

Q値(熱損失係数)

( W/m2/K : 外皮からの熱損失+換気による熱損失)を合計床面積で除したものです。UA値との違いは換気による熱損失を考慮していることです。以前は建物のエネルギー性能を表す代表的な指標でしたが、今はUAが主流になっています。
面積120m2, 外皮面積307m2の標準住宅の場合、 省エネ基準とZEH基準 のQ値はそれぞれ2.7と1.9となります。
省エネ基準の場合の計算は
(0.87 (W/m2/K) x 307m2 ) / 120m2 + 0.4(W/m2/K) = 2.7
0.4(W/m2/K) は0.5回の換気率による熱損失です。熱回収率が75%の熱交換器型第一種換気に変えると、換気による熱損失は 0.4(W/m2/K) から 0.1(W/m2/K) に改善し、Q値は2.7から2.4に改善します。ZEHの場合は1.9から1.6に改善します。
欧米では換気熱損失は住宅のエネルギー評価の重要な要素ですが、日本ではQ値が省エネ基準で使われなくなり、換気熱損失を考慮する基準が無くなってしまいました。建物の外皮断熱性能を改善すればする程、換気熱損失は無視できなくなります。本来ならば、住宅の高性能化に伴いより重要な要素になっているのですが、評価基準が無くなってしまっている変な状況です。

C値(相当隙間面積)

建物の機密性能を表す数値です。建物全体の隙間の面積を建物の面積で除したものです。単位はcm2/m2となり、小さい程、気密性能が高いと言う事です。風や建物の内外温度差によってこの隙間から外気が出入りします。この空気の出入りは「換気」ではなく「漏気」と呼びます。日本では一般的にC値1cm2/m2以下を高気密と呼んでいます。
C値 はQ値の計算には考慮されませんが、漏気による熱損失が発生します。C値1cm2/m2 の場合、Q値は実質0.1増加します。熱交換器を使ってQ値の増加分を0.4から0.1に減らしたのに、漏気によって0.1増えてしまうのです。換気性能を良くすればするほど、気密性能を良くする必要があると言う事です。ヨーロッパでは 熱交換器を使用する場合の一般的な気密性能はC値0.5以下としています。北欧では0.3以下です。日本にはこの気密性能基準がないのです。

東京における高気密高断熱の定義

「現行省エネ基準の建物で、部分間歇暖房をした時より低い暖房負荷で、全館連続暖房を実現できる気密性能+断熱性能+換気性能」を、高気密高断熱と提案しました。
同じ断熱性能の家を、部分間歇暖房した場合と、全館連続暖房した場合の暖房負荷の違いは0.35~0.50 : 1です。言い方を変えると部分間歇暖房によって、暖房負荷を35%から50%に抑えることが出来るのです。幅があるのは生活様式、在宅時間、補助暖房器具の使用によるものです。全館連続暖房の場合、Q値を1/2にすると、暖房負荷は1/3になり、全館連続暖房を部分間歇暖房以下の暖房負荷で実現できると言う事です。
東京で目指す高断熱はQ値1.3以下です。 熱交換器型第一種換気を採用する場合はUA値が0.47以下となります。
(0.47 (W/m2/K) x 307m2 ) / 120m2 + 0.1(W/m2/K) = 1.3
偶然にもHEAT20と言う団体が提唱しているUA値と一致します。省エネ基準のUA値0.87から0.47への改善は大変に見えますが、高性能窓を採用るだけでほぼ実現できます。ここでの高性能窓はUW値: 0.9以下の窓です。ヨーロッパでは標準になっています。日本ではアルミ樹脂複合枠が主流で、性能はUW: 2.8程度です。
高気密はC値1.0以下とすべきです。熱交換器を使用る場合は0.5以下を目指すべきです。
建物の気密性能を知るには現場で測定試験をする必要があります。日本では気密測定は殆ど行われていませんが、最近の新築はC値: 2程度と言われています。気密性能を2から1以下にすることはそれ程難しくありません。漏気の原因は電気配線、水土管、エアコンの配管、換気のダクト工事によって出来る隙間です。コンセントやスイッチの取付場所を外壁から仕切り壁(内壁)に移したり、換気扇の数を減らしたり、丁寧な隙間の穴埋めによって十分達成可能です。

熱交換器型第一種換気の利点

熱交換器を採用る代わりに、外皮の断熱性能をもっと上げるべきと言う意見もあります。 暖房負荷だけを見れば同じかもしれませんが、熱交換器型第一種換気の利点は 暖房負荷の削減だけではありません。
全熱交換器が前提ですが、給気口からの空気の温度が17℃程度になる為、心地良さが大きく改善します。17℃とは言え、直接体に当たれば決して気持ち良い物ではありません。給気口の位置は十分検討する必要があります。
全熱交換によって、加湿器無しで湿度を高く保てることが可能になります。夏は反対に湿度を低く保つことが出来ます。
高断熱、低換気性能(第三種換気)の家では実現できない利点が多くあると言う事です。

熱交換器型第一種換気で考慮すべきこと

項目考慮すべきこと
屋外給排気口数を減らす: 雨漏り、漏気、コスト、清掃等、すべての面で有利です。
方向を統一する: 風の影響を減らす。
高さを統一する: 温度差換気の影響を減らす。
網は取り外し可能: 網は必ず詰まります。
点検、メンテできる場所に付ける: 網の点検、清掃が簡単に出来るため。2階以上の高さの場合は窓を開けたら手が届く位置に設置。
室内給還気口数を減らす: 間取りによりますが、開放的な間取りの場合、想像以上に空気は動いています。少しの温度差で空気は家中を循環します。扉を常に閉じている閉鎖空間でない限り、よどみは出来ません。給排気口を減らせばダクトも減り、コストと点検、清掃個所も減ります。
排気口は人に直接空気が当たる場所を避ける: たとえ17℃でも体に当たると不快です。
給気口は湿度が高い場所を避ける: 熱交換素子がカビたり、凍結しやすくなります。
給排気口はダクトを短く出来る位置を選ぶ; 扉からなるべく離れた場所に設置するのが一般的ですが、家(部屋)の空気は十分動いています。
熱交換器(換気設備)熱交換素子、ファンを簡単に点検、清掃、修理できる機器を選ぶ: フィルターはありますが、中は必ず汚れます。ファンモーターが故障する場合もあります。
天井や壁を壊さなくても交換できる様に設置する: 数十年後には必ず交換を必要とします。運が悪ければ10年後に交換する必要があるかもしれません。最も良いのは設備クロゼットを設ける事です。可能で無ければ、小屋裏(2階天井裏)への設置をお勧めします。この場合、小屋裏は断熱空間にする必要があります。小屋裏の開口は機器を出し入れできる十分な大きさを確保する必要があります。
換気扇(熱交換器型換気設備を含む)は2009年に施工された長期使用製品安全表示制度の対象品です。経年劣化による事故(主に火災)を防ぐため、設計標準使用期間が設定され、買換えが奨励されています。換気扇は一般的に15年です。
床下は避ける: 絶対ではありませんが、床下浸水の可能性があります。仮に浸水の可能性が低い立地条件でも、床下に給水管を設置することが多く、水漏れが起きる可能性があります。ダクトは給水管や下水管に比べ太い為、一般的な床下では人の移動を阻んでしまいます。定期的な床下検査ばかりでなく、給水管や下水管の修理が難しくなります。
ダクト建物の設計段階に経路を考慮する: 現場の施工者任せにするべきではありません。
なるべく短く、点検、修理がしやすい様に設置する: 1階と2階を結ぶ縦ダクトは設備クロゼットに配置するのが合理的です。通常のクロゼットの一部を設備クロゼットにすることも可能です。
寝室には通常、新鮮空気の給気口を設けます。ダクトは小屋裏に置くのが合理的です。小屋裏を屋根裏収納として使う場合は、ダクトを2階の天井裏や、小屋裏の床下に隠すのではなく、露出した状態で設置する事をお勧めします。
1階天井裏のダクトはなるべく少なく、短く:
1階天井裏は通常狭く、アクセスがしにくい空間です。最悪天井を剝がす必要が出てきます。開放的な間取りでは1階の空間が殆どつながっている事もあります。この場合、2階から吸気し、1階には給気口を設けず、還気口だけにする事も可能です。
多くの給気口を設け、まんべんなく給気する事は理想的ですが、ダクトが汚れていれば元も子もありません。開放的な間取りでエアコン1台による全館連続暖房(冷房)を行えば、空気は温度差を無くすために自然に家中を循環し、家はまんべんなく暖まるだけでなく新鮮な空気も家中に供給されます。
ダクト清掃は必ずしも必要ない:
メーカーはダクト清掃に関しては明確なガイドラインを出していません。ファンの羽同様、ダクトも汚れます。欧米の換気システムメーカーもダクト清掃に関してはガイドラインを出していません。ダクト清掃に関する意見は分かれています。ダクト使用の歴史が長く、普及率が高い米国では、全米ダクト清掃業協会が3~5年毎のダクト清掃を推奨しています。一方米国環境省(Environmental Protection Agency)は「必要に応じて」と言う立場です。環境省の立場を下記要約します。
– ダクト清掃の効果はまだ十分理解されていない。
– ダクト清掃が健康被害を減らしたり、ダクト内の汚れで室内のホコリが増える事を証明するデータや研究結果は無い。
– ダクト内の汚れはダクト内壁に付着している為、室内に放たれるわけではない。
– カビが繁殖しているか、ネズミや昆虫の住処になっているか、ホコリによって目詰まりを起こしている場合には、ダクト清掃をすべき。
ダクト清掃の注意点とリスクも指摘しています。
– ダクト清掃を必要する状況に至った原因を突き止め、改善しない限り、また同じ問題が起きる。
– ダクト清掃をする場合は、同時にファン、熱交換素子等も清掃する必要がある。
– 清掃者が必要な知見を持っている必要がある。間違った方法ではかえって健康被害が起きたり、ダクトに傷がつけられてしまう場合がある。
– 防カビ材、シール材などの使用には慎重を期すべき。
ダクト材料にも注意すべき
米国では金属製のダクトが主流ですが、日本やヨーロッパでは樹脂性が主流です。水道管同様、以前はPVC(塩化ビニール)が主流でしたが、今はポリエチレン系が主流になっています。理由の一つは塩ビに含まれる添加物の人体への影響です。日本でも塩ビからPETに変更したメーカーも多くあります。
ダクトの内面はなるべく平坦で滑らかであるべき
ダクト内壁の凹凸は空気抵抗を高め、送風ファンの負荷を増やします。粗い内面も空気抵抗を増やし、ホコリが付きやすくなります。清掃もしにくくなります。
セントラル冷暖房が普及している米国では大口径の金属製ダクトが主流です。この様なダクトでは、接続部が多い為、つなぎ目の気密性が重要です。日本やヨーロッパでは換気専用のダクトが多い為、ジャバラ形状のフレキシダクトが主流です。長所は接続部が少ない事ですが、内面の凹凸が大きい物もあります。極力凹凸が少なく、内面が滑らかなものを選ぶべきです。
ダクトの断熱
一般的な熱交換器型第一種換気システムのダクトは、全館連続暖房された断熱空間内に設置する事が基本です。断熱空間内に設置できない場合は、建物の断熱仕様と同等の断熱処理をダクトに施す必要があります。断熱空間に設置されたダクトには断熱処理は必要ないと言う事です。
国産メーカーが提供している吸気用ダクトは小口径(内径約50㎜)の断熱フレキチューブが主流です。欧米で使われている断熱ダクトと違い、断熱材の厚みは1㎝程度で、非断熱空間で使用できるレベルではありません。
薄い断熱材の目的は、防音と部分間歇暖房時に結露をしにくくする事です。この断熱ダクトのもう一つの特徴は、内面が布の様な形状で、滑らかでないと言う事です。防音(吸音)の観点からは優れていますが、空気抵抗が大きく、ホコリがたまりやすく、清掃がしにくくなっています。
全館連続暖房を前提に断熱空間にダクトを施工するのであれば、断熱フレキダクトではなく、内面が滑らかなダクトを使用すべきと思います。

間違ったダクト配管、正しいダクト配管

間違ったダクト配管

上図は間違ったダクト配管の例です。熱交換器からの吸気ダクトが断熱空間の上に設置されています。熱交換器によってせっかく熱と水分を回収したのに小屋裏で冷やされてしまいます。冷やされた空気の中の水蒸気は、ダクト内に結露する可能性もあります。せっかく回収した水蒸気はダクト内で結露し、カビが繁殖します。結露する場所はダクトの中間地点かもしれません。この場合、ダクトの両端は奇麗で、問題を発見するのに時間がかかる場合もあります。エネルギー消費、点検、清掃、修理の全ての点で、短く、シンプルなダクト配管が有利です。非断熱空間を通るダクトを断熱しても、断熱性能が十分でなければ、結露は防止できても、空気温度は下がってしまいます。よい設備を選ぶ事は大切ですが、それ以上に初期設計、施工、点検、メンテナンスが重要だと言う事です。

正しいダクト配管

上図は正しいダクト配管の例です。

シンプルな換気システム

家を建てた頃は、性能が高く、機能が多い設備が多ければ多い程、豊かな生活が出来ると思っていました。
今は違います。基本設計と、正しい設備(家)の使い方が重要であると日々実感しています。
熱交換器型第一種換気を使ったシンプルな換気設備の例を下図で示します。

シンプルな熱交換器型第一種換気シンプルな熱交換器型第一種換気

極端な例ですが、室内の吸気、還気口は最低限の一個づつです。1階には台所、浴室、トイレに独立した換気扇があり、外壁を通して排気しています。2階にはトイレ換気扇と、熱交換器の排気と吸気口を屋根の軒下に付けています。シンプルにしたとは言え、合計6個の給排気口があります。軒下の3個の給排気口はメンテナンス性を考慮して、それぞれ2階の窓の上に設置しています。6個の給排気口の内、4個は北面に付けています。風の影響を最小限にする為です。
1階のレンジフードとトイレ換気扇もダクトを使えば北向きに出来ますが、この例では極力ダクトを減らす事に優先順位をつけています。
給気口は2階の広い廊下に設置します。2階の個室は欄間窓とルーバー式ドアで廊下とつながっています。ドアを閉めていても欄間窓を開けていれば、ドアを全開している時の60%程度の換気が出来ます。欄間窓を閉めれば換気率は40%程度となります。プライバシーは多少犠牲になりますが、換気、冷暖房設備をシンプルにする事が可能です。

2階廊下

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