ヨーロッパでは新築だけでなく既存住宅でも性能表示が義務化

ヨーロッパでは意欲的な住宅性能基準が設定、義務化され、より高いレベルを達成した場合は補助金が支給され事を説明しました。
高性能住宅の価値が正当に評価されるために、省エネ制度に基づく性能表示が新築住宅だけでなく、既存建物を売買、賃貸する場合にも義務化されています。乗用車の燃費表示が義務化されているのと同じ考え方です。日本にも住宅性能表示制度はありますが任意です。また性能等級の基準が低い為、高性能住宅は相応の評価を得ることは出来ません。
住宅性能表示の義務化は性能基準の義務化と同じか、それ以上に重要です。信頼できる性能表示があることで正当な価値が決まります。正当な価値があるからこそ、所有者は建物をメンテし、断熱・設備改修にお金をかけます。中古物件の購入者は安心して、物件を適正価格で購入する事が可能になります。住居の使用年数が長く、中古物件の取引が多いヨーロッパでは、物件の価値を客観的に評価することが重要です。建物のエネルギー性能の重要性は高まり、より高い性能が必要となりました。義務基準以上の基準が存在しないと、それ以上の性能が評価されにくくなります。せっかく高い性能の建物をつくっても評価されなければ、性能改善への意欲が失われてしまいます。
ヨーロッパのエネルギー性能等級は差別化が出来るように多くの等級が用意されています。下表はオーストリアの住宅エネルギー性能等級です。nZEBの最低基準を満たした戸建は緑の等級に分類されます。

オーストリアの住宅性能等級

性能が低い等級は既存建物用の等級です。既存建物の性能表示は現状の性能だけでなく、どの様な断熱・設備更新をしたら現行基準にレベルアップできるかを記載する必要があります。この情報によって、購入希望者が物件の価値を客観的に判断できるようにするためです。

日本にも住宅性能表示制度はありますが成果が出ていません-木造住宅は30年で市場価値がなくなってしまいます

ヨーロッパの様な住宅性能表示制度は日本では支持されないと言う意見もありますが、任意ですが耐震性能では2000年から既に導入されています。「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(ひんかくほう)に基づき、等級1,2,3が定義されています。等級1が建築基準法の基準を満たしたもので、等級2と3はそれぞれ1.25倍、1.5倍の強度となります。日本では高い基準が設定されると、低い基準の建物の評価が下がってしまうと言う心配から、性能表示の義務化をためらいます。ヨーロッパでは高性能住宅の価値が適切に評価されないと言う心配から性能表示が義務化されています。性能表示が無い又は不十分な場合は、低性能住宅だけではなく高性能住宅を含めたすべての建物の評価が落ちてしまいます。
日本の木造建物が30年で市場価値を失ってしまう事が何よりの証拠です。
欧米では築100年の木造建物であっても状態が良ければ高い市場価値が付きます。
日本政府は以前からこの問題を改善しようとしてきたのですが十分成果を出せていません。エネルギー性能に限らず耐震性能が改定される度に古い基準で建てられた建物の価値が落ちてしまいました。義務化基準以上の基準が無かったからです。
「ひんかくほう」には温熱環境、エネルギー消費量の評価項目もあります。残念ながら断熱性能の最高等級は1999年に制定された基準と同等になっています。耐震性能であれば施主が等級2や等級3を指定し、より強い建物を建てる事が出来、性能表示によって評価してもらうことが出来ますが、断熱性能の場合は上位性能が無いのです。他の先進国と比べ30年遅れた断熱・エネルギー消費基準が最高等級に位置付けられています。一般の方はこれ(最高等級)で十分と思ってしまうわけです。上位性能基準の欠如は高性能住宅の発展と普及の足かせとなっています。より高性能な住宅を目指したい住宅メーカーは明確な目標が無いため、将来への投資に躊躇してしまいます。先進的な顧客は基準が無いため明確な要望をメーカーに出すことが出来ません。本来であれば先進的なメーカーと顧客が道を切り開き、国は基準の制定や補助金で支援する事で大きな流れをつくっていきます。

品確法の断熱性能、エネルギー消費性能等級

制定から20年以上経ちますが、「ひんかくほう」に基づく住宅性能表示制度の使用は政府の思惑通りには増えていません。2019年での使用率は新築戸建てで30%程です。大手、中堅ハウスメーカーが建てるプレハブとツーバイフォー住宅の使用率は高いのですが、在来工法の戸建の使用率は10%程度です。高性能住宅の普及が進まない状況と似て、零細工務店やハウスメーカーの対応が進んでいません。認定料金、検査料金が高い事も問題と言われています。施主も消極的です。耐震性能以外は現行基準より高い性能等級が無いため、わざわざ一般的な家の性能を証明するために、高い費用を払いたくないと言うのが言い分です。工務店やハウスメーカーが魅力を感じない以上に施主も魅力を感じないのです。住宅性能表示制度の多くの基準を使う長期優良住宅の普及率は25%で、普及しない理由は住宅性能表示制度とほぼ同じです。