夏にも高断熱住宅は有効です

夏の暑さは年々厳しくなっています、もはや通気だけでは過ごせません

「日本には高気密高断熱より中気密中断熱が合っている」と言う意見を良く耳にします。高断熱の家は夏熱く、高気密な家は風通しが悪いと言うイメージが原因かもしれません。「夏はエアコンに頼らず、心地良く過ごしたい」と言う願望が背景に有るからかもしれません。
樹木が植えられた広い庭があり、近くに神社の森や小川があれば、風通しが良い家で夏の暑さをしのげるかもしれません。一昔前なら、昼間は暑くても、陽が沈めば気温が下がり、寝る頃にはエアコンなしでも眠れる気温になっていました。この様な環境では軒が深く、風通しが良く、断熱性が高い藁葺屋根(わらぶきやね)を持つ伝統的な日本家屋が理想的かもしれません。
今の都会はどうでしょう。道は広くなり舗装され、駐車場を作る為、小さくなった庭の一部をコンクリートで舗装し、生垣の代わりにブロック塀が使われるようになりました。太陽光を遮るものが減る一方、太陽光によって温められ、蓄熱するものがどんどん増えています。蓄熱量が多いので、夜になっても気温は下がりません。湿度も以前より高くなっています。家が建て込んでいる為、風もそれ程通りません。
家の軒はどんどん小さくなりました。外額がない窓には、気軽に簾(すだれ)を掛けることも出来ません。
都市部の夏は、冷房無しで過ごすのは難しくなっています。まして「快適に」と言う条件を加えると、冷房は必須ではないでしょうか。高齢者にとっては、冷房無しでは命が危ない日もあります。

夏は高気密高断熱、中気密中断熱のどちらでも良い

高気密を敬遠する理由の一つは、シックハウスではないでしょうか。隙間風によって有害物質を屋外に出すことはできますが、換気量がはっきりしない方法に頼るのは危険です。第一種換気が最も安定しています。
高気密の家での計画換気は、息苦しいと思う方もいると思います。高気密の家でも春、初夏、秋には窓を開け、換気すればよいのです。断熱性が高い家ほど、寒くなっても窓開け換気が可能です。断熱性が低い家では、初春、晩秋には窓を閉めないと部屋が寒くなりすぎ、換気がが足りなくなります。第三種型換気の家では、冬になると、給気口を閉めている場合が多くあり、換気不足になっています。
高断熱を敬遠するもう一つの理由は「断熱性が高い家は夏暑い」と言うイメージかもしれません。無断熱の家に比べて、夜冷えにくいのは事実です。しかし標準的な新築住宅にはそれなりの断熱性があり、冷えにくさはそれ程変わりません。断熱性が良いと、温まりにくいと言うメリットもあります。真昼の一番熱い時でも内壁温度が上がらず、暑さをそれ程感じません。窓を開けない限り、夜になっても室温が下がりにくいデメリットもあります。窓を開ければよい事ですが、防犯上の心配もあり、就寝時にエアコンを止めたい方には悩ましい事です。この問題は標準的な新築住宅にもあり、高断熱住宅特有の事ではありません。
都市部の夏は温度以上に湿度が下がりません。たとえ窓を開けて、外気を取り込んだとしても、相対湿度100%近い空気が室内に入ってきます。湿度を下げる唯一の方法は冷房です。
温まりにくく、冷えにくい特性は全館連続冷房には都合が良いのです。外の温度にそれ程影響されずエアコンは安定した出力で稼働します。昼間は温まりにくいため出力はあまり上がらず、夜は冷えにくいため出力はあまり下がりません。エアコンを運転していると除湿が24時間安定して行われます。

夏は遮光が一番大切

「深い軒があれば太陽光を効果的に防ぐことができる」と多くの人が考えています。
しかし、軒が十分深ければすべての太陽光を防げるわけではありません。南面窓から入る直射光には有効ですが、東面窓と西面窓には効果がありません。
窓の向きに関係なく入る、散乱光にも効果がありません。
太陽光の散乱は主に水蒸気や微粒子によって起きます。湿度が高い夏は散乱光の割合が高くなり、冬に比べ、夏の青空が白っぽく見えるのはこの為です。
東京での8月の平均太陽光エネルギーを下図に表しています。窓の向きに関係無い散乱光 (1.36kWh/m2/day)は、南向き窓から入る直射光 (1.15kWh/m2/day)より多いのです。その上、直射光は垂直に近い方向から窓ガラスに当たるため、半分程度が反射されます。軒が無くても、南向きの窓から入る直遮光は、散乱光より少ないのです。
下図のデータはNEDO(新エネルギー開発機構)の日射量データベース閲覧システムを基にしています。

垂直壁(窓)が受ける太陽光エネルギー

家に入る太陽光の80%は散乱光

東側、西側に隣家がある一般的な家の場合、夏場においては約50%の熱が窓からの太陽光です。この太陽光の80%が散乱光です。
残り50%の大半は生活熱です。
省エネ家電、LED電球等で生活熱を減らす事は出来ますが、散乱光の侵入を減らす事が最も効果的です。
唯一の方法は窓の外側で遮光する事です。窓の内側での遮光は殆ど効果がありません。室内につけられた遮光カーテンに太陽光が当たり、カーテンを温め、最終的に部屋を暖めます。
夏の太陽光熱取得を下表にまとめました。

窓から屋内に入る太陽光エネルギー

上の表から分かるように、直射光より散乱光が多く、熱取得は合計で16kWh程となります。太陽光熱取得は殆どが8時半から16時半までに起きるため、この時間帯に平均2kWの太陽光熱取得が起きています(16kWh / 8h = 2kW)。
太陽光熱取得を減らす方法は遮光です。この例では南向きの窓からの熱取得が大きいので、南向きの窓に簾、外ブラインド、シャッターなどを付けます。昼間2階の寝室を使っていなければ、シャッターを閉めることをお勧めします。2階に北向きの大きな窓を付けた場合は、遮光をお勧めします。遮光対策で2kWを1/3に減らす事は十分可能です。エアコンの効きがずっと良くなります。
家の東側や西側に接続道路があり、大きな窓を東西方向につける場合は細心の注意が必要です。垂直壁が受ける太陽光エネルギーのグラフからも分かるように、強烈な直射光が窓から入ってきます。日当たりが良い大きめの東・西向き窓の外側には、外ブラインド、シャッターを取付けることを強くお勧めします。