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エアコン一台の全館連続暖房を試してみて(2)

東京は年5ヶ月間乾いている、3.5ヶ月間は多湿、快適なのはたったの3.5ヶ月間

東日本大震災後に始めた室内環境測定と冷暖房エネルギ消費測定

2011年の東日本大震災後、室内の温度、湿度、二酸化炭素濃度の連続的な測定を開始しました。複数の測定、記録装置(データロガー)による本格的な測定です。温度、湿度、二酸化炭素濃度に加え、エアコン消費電量の連続測定・記録も開始しました。
当初は各部屋の測定をしていたのですが、殆どの場所で1階のリビング、2階のファミリールームとの温度差が0.5℃以内である事が分かったので、それ以降リビング、ファミリールーム、主寝室、子供部屋の4か所を長期間測定しています。

上のグラフは2014年5月から2015年4月までの記録です。リビングとファミリールームの違いは殆ど無いので、代表値としてファミリールームの測定結果を表示しています。外気温度と湿度は気象庁の東京観測所のデータです。

相対湿度より絶対湿度に注目すべき

まず外気の湿度に注目してください。ここでは通常使う相対湿度(%)ではなく、絶対湿度(g/kg)を使っています。絶対湿度は空気1kgに何グラムの水蒸気が含まれているかです。ちなみに空気1㎏は体積にして0.86m3程となります。面積120m2の家の体積は300m3程なので、室内空気の絶対湿度が10g/kg( 25℃、相対湿度50%) であれば、約3.5リットル分の水が水蒸気として存在しています( 10g/kg x kg/0.86m3 x 300m3 = 3,488g = 約3.5リットル)。
冬の室内温度と相対湿度はそれぞれ、20℃以上、40%以上にすべきです。20℃で相対湿度40%は絶対湿度で約6g/kgです。室内の空気は換気や漏気によって外気を取り込んでいるので、室内の絶対湿度は外気の絶対湿度と同程度になります。室内では洗濯、風呂、調理、人の発汗による水蒸気の放出で、多少絶対湿度が高くなります。水蒸気の放出量が高く、換気と漏気が少ない程、室内の絶対湿度は高くなります。反対に水蒸気の放出量が低く、換気と漏気が多い程、室内の絶対湿度は低くなります。
夏の室内温度と相対湿度はそれぞれ、28℃以下、60%以下にすべきです。28℃で相対湿度60%は絶対湿度で14g/kgです。室内で発生する水蒸気は室内の乾燥を緩和してくれるのですが、夏は反対に悪化させてしまいます。相対湿度40%以上60%以下は絶対湿度では6g/kg以上14g/kg以下となりますが、出来れば 7g/kg以上13g/kg以下 を目指すべきです。

想像以上に長い間乾燥している東京の冬

東京の冬の湿度は低く11月中旬から4月中旬までの5か月間は平均3.5g/kg程度です(グラフの赤い線)。この外気を室温20℃に温めると、相対湿度は25%程になってしまいます。断熱性が低く、漏気が多く、日本で一般的な部分間歇暖房(個室ごとに必要な時だけ暖房する)では、暖房空間の乾燥と闘いながら、同時に窓の結露や押入れの湿気に対処する必要があります。外皮(壁、床、天井又は屋根)と窓の断熱性が高く、家中が同じ温度であれば結露や湿気の問題は無くなります。
11月中旬から4月中旬 の乾燥期はインフルエンザの流行期間と一致しています。湿度だけが原因ではありませんが、健康な住環境は温度だけでなく、湿度、換気にも注意が必要です。

日本の夏は何しろ多湿

梅雨から夏の3か月半は絶対湿度が13~14g/kgを超える日が続きます。東京では平均絶対湿度17~18g/kgの日が2か月間続きます。この外気が室内に入ってくると、相対湿度は73%になります。室内で発生する水蒸気を加えると湿度はもっと高くなります。エアコン冷房は除湿を同時に行っているので、冷房されている部屋の湿度は下がります。しかしそうでない場所(廊下、水回り、押入れ等)は高温多湿のままです。積極的な換気をしたとしても、あらゆるものが湿気ます。海外の温暖地域と比べても夏の湿度の高さは突出しています。我が家で冷房を開始する時期は温度ではなく、湿度で決まります。意識的に湿度を見て決めている訳ではないのですが、結果を見ると絶対湿度が 15g/kg に達すると冷房を始めている事が分かります。
風通しの良い家で、エアコン無しで夏を過ごすのは理想的ですが、温暖化、都市部のヒートアイランド化、治安の問題を考えるとエアコン無しで夏を過ごすのは非現実的と言う結論に達しました。廊下、水場の暑さは冬の寒さほど問題ではありませんが、湿気→カビ→ダニの悪循環を防ぐ必要があります。冬の全館連続暖房と同様、夏も全館連続冷房が最も合理的な方法です。廊下、水場などの非居室での一番の目的は冷やす事ではなく、除湿する事です。

快適な春と秋は思ったより短いが、その時期は思いっきり取り込むべき

気温と湿度がちょうど良いのは春の4月上旬から6月中旬までの2ヵ月と秋の10月から11月中旬の1ヵ月半です。この時期は冷暖房や24時間換気は必要ありません。24時間換気装置を止め、窓を開け、心地良く新鮮な空気を味わう絶好の時期です。
24時間換気を止める事は、建築法違反になるのではと心配される方もいると思います。法律の解釈は脇に於いて、自然換気の効果をグラフから説明します。

換気量は機械換気より自然換気が大きい

グラフには24時間気を停止して、窓開けによる自然換気を実施している期間が2つあります。4月下旬~6月下旬と9月中旬~10月中旬の2期間です。この自然換気時の二酸化炭素濃度(黄色の線)を24時間換気期間と比べると、二酸化炭素濃度が低い事が分かります。24時間換気時が平均1,000ppm(換気量90m3/h相当)なのに対して、自然換気時は平均450ppm ~800 ppm(換気量1,080m3/h~135m3/h相当) です。
24時間換気は能力の1/2で運転しているとはいえ、実データは自然換気の能力の高さを示しています。我が家の場合、幅1.1m、高さ1.3mの開閉式窓を1階と2階で2個づつ、約1㎝程開ける事で 135m3/h を実現しています。窓を開けると言うより、窓パッキングが効かない程度に窓に隙間をつくっている状態です。北欧やドイツの窓には施錠状態のまま「微換気」が出来る機能が付いています。
北欧やドイツの窓は閉まっている時は日本の窓より格段に気密性が高いのですが、施錠したまま微換気(隙間風を通す)機能を持っているのです。隙間による自然換気は無風の時は機能しないのではと思うかもしれません。1階と2階を微換気すると、安定した温度差換気が実現します。室内の気温が外気より高い為、温かい室内空気が2階から抜け、冷たい外気が1階から入ってきます。室内外の温度差は夜中が一番大きい為、ほんの少しの隙間で十分な換気が実現します。外の気温が高くなる昼間は思い存分窓を開け、新鮮な空気を家に取り込みます。
日本では高気密に反対する意見を持つ方が多いようですが、ヨーロッパは窓を含めて、高い気密性能を追求します。これは冬の暖房費削減、漏気による不快感と室内の乾燥を減らすためです。一方、春と秋の様に換気を積極的にした方が快適な季節の為に、施錠したまま、「漏気」を作ると言う合理的な考え方です。

季節ごとの冷暖房と換気

2014年5月~2015年4月のグラフを使って冷暖房と換気を説明します。

春の自然換気

5月から6月中旬の梅雨入りまでは温度、湿度とも過ごしやすい季節です。
24時間換気の運転は止め、昼間は積極的に窓を開け、夜は窓の微換気によって換気します。微換気を行う窓は決まっているので冷房期までは昼夜を問わず、開けた状態です。昼間は必要に応じて他の窓を開け閉めします。言い方を変えれば、人工的に漏気を作ると言う事です。いたって単純な方法ですが室内の温度は安定しています。5月の室内温度のデータ(青線)が示すように25℃~26℃の間で推移します。1日平均外気温は5月上旬の20℃から6月下旬には25℃近くまで上昇しますが、室温はこの期間で1℃程度しか増えません。外気温の日中最高温度と明け方の最低温度の差は8℃程ですが、室内では温度差が2℃程度しかありません。
この期間の外気絶対湿度(グラフの赤線)は大きく上下しながら上昇します。梅雨入りの時期に15g/kgに近づき、16~18g/kgまで上がります。室内絶対湿度(グラフの緑線)も上昇しますが、気温と同様、外気と比べて変動が少なくなります。
夏に近づくにつれ太陽が高くなるため、室内に入る太陽光線が減り、暖房効果が減ります。外気温が高くなるとより多くの窓を開けるので、熱が外に排出され、結果的に内外温度差が小さくなります。室内の温度変動が小さいのは断熱性が高く熱容量が比較的大きいからです。木造の家でも断熱性能を改善し、開放的な間取りにすることによって、安定した室内環境を作り出せます。
室内の湿度変動は想像以上に小さいです。壁の一部が珪藻土クロスで、残りの壁が水性ペンキ仕上げであること以外は一般的な家と変わりません。いわゆる「調質材」は使っていません。
梅雨入りすると窓を開ける時間が増えます。防犯上問題が少ない2階の窓の何個は昼夜開いた状態になります。梅雨の終わりが近づくと気温と湿度がますます上がり、我慢の限界を超えます。個人差はありますが、一番不快なのは温度ではなく湿度です。

梅雨の終盤から始まる冷房期間

梅雨の終わりの頃に外気絶対湿度が15g/kgを超えると、窓を全て閉め、24時間換気を再開し、冷房を開始します。24時間換気にする理由は換気量を減らす事によって外気からの湿度を制限する事です。又、全熱交換機を通しての換気なので、外気の湿度を室内の排気に戻すことが可能になります。この時期の外気温度と室内温度は同じなので、熱交換の意味はありません。この時期のエアコン運転の目的は冷房ではなく除湿です。残念ながら一般のエアコンは空気を冷やさずに除湿だけを行うことは出来ません。結果的に除湿量と室温の妥協しながらの冷房運転となります。除湿後の冷気を温めなおす「再熱除湿機能」を搭載した製品もあり、進化を続けていますが、省エネと言う観点からはじゅぶんではありません。

夏の冷房期間

梅雨が終わると気温度が一気に上昇し本格的な夏になります。梅雨との大きな違いは気温だけでなく太陽です。日が高い為、直接光は入ってきませんが、方向性が無い散乱光が家中の窓から侵入します。あまり知られていませんが、この散乱光が家を温める最も大きな要因です。散乱光に対して、軒は一切効果を発揮しません。唯一の方法は室外に簾、よしず、外ブラインド、シャッター等を取り付け、遮光によって散乱光の量を減らす事です。70~80%の遮光率を目指すべきです。
我が家では2階の東、南向きの全てと、一部北向きの窓に簾をかけます。遮光が必要な窓は、周りの建物や植栽との関係で決まります。梅雨があけると除湿優先から冷房優先に変わります。目標室温は27℃で、湿度は相対湿度60%以下です。我が家では、常時運転する2階ファミリールームのエアコンの温度設定を26℃にすると、おおむね27℃、相対湿度60%が達成されます。
夏が終わるまではエアコンの設定は変えず、連続運転を続けます。
夏の室内環境はグラフの通りです。外気絶対湿度と室内絶対湿度を比較するとエアコンの除湿効果が分かります。24時間換気での室内二酸化炭素濃度は平均1,000ppm(日本の推奨二酸化炭素濃度の上限、ドイツは1,500ppm)程度です。換気量を増やすと、外気からの湿気の取り込みが増えるため、室内の湿度が上がってしまいます。我が家の全熱交換機は国産第一世代で、決して優秀ではありません。最近の物であれば、換気量を増やしながら湿度を減らす事も十分可能です。
2014年の夏は比較的早く終わり、7月8日から開始した連続運転は9月18日に終了しました。この夏の冷房用電力消費は530kWhで電気代はピークシフト契約で12,500円でした。一般的な電灯契約であれば16,000円となります。夏の昼間の電気料金が高いピークシフトの方が電気料金が安い事を不思議に思うかもしれません。我が家の場合、冷房用電力消費が最も高いのは深夜で、一般的な午後の山が無いからです。断熱性能が高くなると屋外の気温と室内の温度との間に遅延が大きくなります。

冷房期間が終わると、24時間換気を止め、再び自然換気を開始します。就寝時までリビングのテラス窓を開け、気持良い外気を味わいます。初秋は気温が高い為、夜は通風を十分行い就寝時までに家を冷やします。10月に入ると気温は日に日に下がります。
この年は早めに自然換気を24時間換気に戻しました。24時間換気時の方が換気量が少なく、熱交換器が機能する為、室内温度を高く保てるからです。11月中旬から比較的寒く、曇った日が訪れるので、必要に応じて暖房を開始します。この年は12月の初めから暖房の連続運転を開始しました。

この年は12月2日から1階の和室にあるエアコンの連続暖房運転を開始しました。この和室(客室)は間口1.7m高さ2mの開口部でリビングと接しています。和室のエアコンで家全体を温めるのです。グラフから分かる通り、屋内の平均温度は21℃で、13時頃に22.5℃の最高気温に達し、明け方頃に最低気温の20.5℃になります。晴れの日は朝の9時頃に暖房を止め、室温が20.5℃程度に下がった夕方に再開します。暖房を止めても太陽光によって室内温度が上昇し、13時頃に最も高くなります。我が家は午前中の日当たりが良く、午後はそれ程よくないのでこの様になります。1日中日当たりが良い家ではピークはもっと遅くなり、最高温度はもっと高くなるはずです。曇り日には日中も暖房を運転します。
湿度は常時40%(絶対湿度6.5g/kg)です。加湿器は使っていません。
この冬の年間暖房消費電力は1,482kWhで電気代はピークシフト契約で31,400円でした。一般的な電灯契約であれば44,300円です。ちなみに東日本大震災以前の電気料金であれば36,500円程です。
加湿器無しで50%の相対湿度を実現し、換気量を1.5倍に出来ればと理想的です。最新の熱・湿度交換率が高い熱交換器を導入すれば十分可能なはずです。

暖房の終了と自然換気の再開

通常は3月中旬から下旬に暖房を止め、自然換気は4月中旬から再開します。

まとめ

当初、高気密高断熱住宅に対しては肯定的な印象と否定的な印象を持っていました。
多くの人と同様に、高気密は息苦しく、換気をしなければ二酸化炭素中毒になると言う心配と、夏の高断熱は暑いのではないかと言う心配です。
室内の二酸化炭素濃度測定によって息苦しさへの心配は無くなり、冷暖房時は換気量を減らすようになりました。
夏の高断熱住宅は熱くありません。断熱性が高い分、日中は室温上昇が抑えられ、さわやかです。但し断熱性が低い建物と比べ、夜になっても熱がゆっくりとしか抜けません。冷房期には気になりませんが、冷房運転停止直後のまだ暑い時期は変な感じでした。もう慣れましたが、この時期には窓を就寝時まで大きく開け、家を積極的に冷やすようになりました。
何よりの収穫は絶対湿度と二酸化炭素濃度の測定データから、室内空気の状態だけでなく、動きも見えるようになったことです。一例ですが、開いた扉の開口部を行き来する空気の量は想像以上に多いと言う事です。人は殆ど感じる事は出来ませんが、ほんの少しの温度差(0.1℃)で大量の空気が行き来します。家の中の空気は隅々まで十分かくはんしていると言う事です。

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