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そろそろエアコンの入替: 全館連続冷房に適したエアコンの選定

過去2回のブログでエアコン1台で全館連続暖房を前提とした機種選びの話をしました。
今回は全館連続冷房を前提とした機種選びの話です。通常であれば1台のエアコンで冷房、暖房を行いますが、2階建ての家では暖房は1階の室内機、冷房を2階の室内機で行います。暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降する性質を利用して、自然に、まんべんなく家を冷暖房する為です。マルチエアコンを使って1・2階で室外機を共有する方法もありますが、室外機を分ける事で故障時のバックアップの確保と言う利点があります。暖房用機種に引きずられることなく最適な冷房用機種を選ぶ事も出来ます。
高気密高断熱住宅は冬は暖かいが、夏は暑いと思っている方が多いと思います。下図は我が家の冷暖房用消費電力をグラフにしたものです。2016年は比較的冷房期間が長かったこともあり、年間冷房消費電力は874㎾hでした。この10年間の平均は冷房が700㎾h、暖房は1,400㎾hです。

前のブログで記載した図をもう一度記載しました。120m2の標準住宅の全館連続冷房暖房負荷のシミュレーションです。断熱性能が上がっても冷房負荷は上がらないことが分かります。
橙色の省エネ基準住宅と赤色実線のQ値1.2の住宅を比べると年間冷房エネルギーは一緒です。この二つの住宅の違いは外皮の断熱性能で、特に窓の断熱性能が大きく変わります。年間冷房エネルギーは同じでも、負荷曲線の山の頂上が3㎾から2.4kWに下がっている事が分かります。断熱性が上がると暑い時間帯の外からの熱の侵入が減るからです(反対に外の気温が下がっても、家の熱は逃げにくくなります)。冷房負荷の低減は暖房時ほど劇的ではありませんが、効果はあります。エアコンはより均一な出力で運転する為、効率も良くなります。
赤色点線のQ値0.9の住宅は全熱交換機を使用している為、外からの水蒸気(湿気)の流入が小さくなり、除湿負荷が少なくなり、結果的に冷房負荷が減少しています(4800kWh→4,300kWh)。
最も効果があるのは遮光です。太い赤色点線の家は窓の遮光を強化しています。冷房負荷が大幅に下がる事が分かります。この場合、年間冷房エネルギーが約3,200kWhで、冷房平均COPを5.5とすると年間冷房電力消費は580㎾hとなります。
暖房負荷曲線の中心(山の頂上)は3.0㎾→2.4㎾→2.0㎾→1.5㎾と半減しています。
冷房機種の選定で重要なのは冷房負荷なので、小型のエアコンも選択肢に入ってきます。

エアコンの諸元を使って冷房出力を推測する事は暖房程簡単ではありません。

暖房の場合は除湿を考慮する必要が無く、(我が家では)風量を「強」に固定している為、エアコンの簡易測定によって出力を測定することが出来ます。冷房の場合は除湿があり、風量も通常「自動」に設定している為、冷房出力の予測は不正確です。おまけにメーカーがどの様な環境で性能試験をしているかも開示されていません。
冷房においては、温度を下げると同じぐらい湿度を下げる事が重要です。日本の夏は梅雨時にまず湿度が上がり、梅雨が開けると温度も上昇します。梅雨時は室温を下げず、湿度だけを下げる事が必要です。この為には吹き出し温度をなるべく下げ、風量を少なくする必要があります。この方法によって、温度低下が減り、除湿量が増えます。この方法でも室温が下がってしまう為、再熱除湿が使われているのです。吹き出し温度を下げるほど、エアコンの効率は下がります。除湿運転の方が通常運転より効率が低い理由です。
メーカーが日本工業規格によって行う試験には冷房時の吹出し温度の規定はありません。暖房時と同様、冷房負荷に関わらず、最大風量で生暖かい空気を出しても良いのです。低出力時はこの試験環境と実使用時の運転方法のギャップが一番大きくなります。この20年で室内機の風量は大きくなりました。20年前は2.8㎾型の「強」は9m3/minが一般的でしたが、今は1.5倍の14m3/minとなり、高性能機種では約18m3/minとなります。この様な大風量は冷房では現実的ではありません。
室内温度:27℃、相対湿度:60%の環境で、吹出し温度:15℃、風量9m3/minでエアコンを運転した場合のエアコン出力と除湿量を計算すると、顕熱出力は2.16㎾、潜熱出力は0.91㎾となり、合計出力は3.07kWとなります。この時の除湿量は1時間当たり約1.45リットルです。吹き出し温度を16℃、17℃に上げると除湿量はそれぞれ1.03リットル、0.54リットルとなります。室内での水蒸気の発生量や全熱交換器型換気の有無によって除湿の必要量は変わりますが、1時間当たり0.5リットルが最低限と思います。
標準的な120m3の家を0.5回/時で換気をすると、換気だけで毎時0.36リットルの水蒸気が家に入ります(120m2 x 2.4m /2 x 2.5g/m3 = 360g 注2.5g/m3は外気と室内空気の絶対湿度の差で、室内空気は27℃60%、外気は26℃75%と仮定)。4人家族の生活による水蒸気発生量を一日当たり10リットル(1時間当たり0.42リットル)とすると1時間当たり合計0.78リットルとなります。
同じ条件で風量を14m3/minにし、吹き出し温度を15℃にした場合、冷房合計出力は4.78㎾となります。最大風量が18m3/minの高性能機種に至っては6.14㎾です。定額2.8㎾の2倍以上です。冷房定額出力2.8㎾のエアコンで除湿を考慮した運転をする場合、最大風量9m3/minが妥当と言う事です。これ以上の風量は性能試験の結果を良くしてくれますが、実運用では意味がありません。エアコンの冷房効率の諸元は残念ながらあまり役に立たないと言う事です。

我が家の冷房負荷

下図は2016年の我が家の夏のデータです。グラフから冷房時の消費電力は350w程度であることが分かります。
この年はエアコンの風量設定「自動」と「強」の両方を試してみました。8月6日までは「自動①」、8月7日から9月17日までは「強」、9月18日以降は「自動②」に戻しました。
自動の期間は外気温度が大きく変動する時も、エアコン消費電力が350w前後で安定している事が分かります。風量を「強」にすると、消費電力変動が大きくなります。12時頃に最大(約400w)になり、明方が最も低く(300w以下)なります。「自動①」の時はオンオフ運転が殆ど無かったのですが、「強」にすると明け方には」オンオフになります。室内の絶対湿度が1.5g/kg程増加している事も分かると思います。「強」の期間の方が「自動①」の期間より気温が高いにもかかわらず、平均的な消費電力は低くなっています。
冷房負荷が小さい時でも「自動」の時は、エアコンが風量を減らし、連続運転を維持し、適切な除湿を継続します。「強」の場合は風量を変更できない為、最低出力以下の冷房負荷ではオンオフ運転に切り替わってしまうのです。オフの時は除湿が行われない分室内の湿度は上がってしまいます。全館連続冷房の場合、除湿が一時的に止まっても家の湿度が急激に高まる事はありません。家全体が調湿されているので、湿度の上昇はゆっくりです。家全体の調湿性は想像以上に大きい事が分かっています。特別な調湿材が無くても、壁、天井、床、カーテン、家具、本、等々が湿度を取り入れたり吐き出す事によって調湿しています。気になるほどの湿度の変化が起きないにせよ、出来る限り連続運転を継続して、湿度を低めに保つことに越したことはありません。

メーカーが公表している日本工業規格に基づく冷房時のエネルギー性能データはあまり役に立たないと書きました。
下の図は上の図のデータを使って外気温と冷房消費電力の関係を示したグラフです。風量を「強」にすると赤線で示された気温と消費電力の関係になります。冷房時のAPFを計算する際の前提もこの様な関係です。
風量を自動にすると黒線で示された様な関係になります。「自動」の場合外気温度が29℃以上で風量は「強」になると推測します。29℃未満では風量を小さくして冷房出力を調整しています。これは正しい制御です。


問題は実際の制御方法に即した性能試験が行われていないのです。試験環境は風量を「強」に固定した時と似ています。
風量が非現実的であると言う事だけでなく、規定されている吸込み空気の湿度が低い為、試験環境では除湿は殆ど起きません。
一番の問題は機種の比較が難しいと言う事です。2.5㎾型の2機種があったとします。機種Aと機種Bの最大風量はそれぞれ13.7m3/min、16.2m3/minで、定額出力での効率(COP)はそれぞれ3.5と5.0とします。定額時での実用的な風量は多くて9m3/min程度と言う事は分かっています。両機種を最大風量でなく適正風量で比較した場合はどうなるのでしょうか。

上図は現行2.5㎾型のベーシックと高性能モデルの諸元から性能を予測したものです。
赤色と紫色の✖印は高性能モデルの外気温35℃と25℃における性能曲線です。1~2㎾出力で高いCOPとなっています。赤色と紫色の●印は同じ機種の外気温0℃と10℃における「暖房」性能曲線です。冷房の外気温35℃と暖房の外気温0℃と冷房の外気温25℃と暖房の外気温10℃がそれぞれ対応しています。理屈の説明は長くなるのでここでは割愛します。
現実的な環境(実際の制御)での効率は冷房の試験値より、同じ機種の暖房の試験値の方が近いと言う事です。
我が家の代表的な冷房環境は外気温度25、消費電力350wです。仮にCOPを4.5~5.5程度と仮定すると、冷房出力は1.58㎾~1.93㎾程度(中心:1.75㎾)となります。この条件(外気温度25℃、冷房出力1.75㎾)での高性能、ベーシックモデルのCOPはそれぞれ6.8と6.0(113%対100%)となります。仕様上のCOP5.0対3.5(143%対100%)とは大分違います。
冷房における仕様書上のCOPと現実的なCOPの乖離は、風量が大きい高性能モデル程大きくなります。上の例のベーシックモデルに乖離はありませんでしたが、他のベーシックモデルには多少なりとも存在します。
暖房のCOP推測曲線を使って我が家のマルチエアコンの性能を見てみます。

他のエアコンでは外気温35℃の冷房性能と外気温0℃の暖房性能が良く一致しするのですが、我が家のマルチエアコンでは乖離があります。上図から分かる様に、黒色の✖印と●印の間にはCOP値で1.2程度の違いがあります。冷房仕様を使うと、高性能2.5㎾型機種に近く、暖房仕様を使うとベーシック2.5㎾型に近くなります。室内機の風量が小さい為、乖離は小さいはずですが、最も大きな乖離となっています。

あくまでも推測ですが、この機種に関しては暖房性能から推測するのではなく、冷房仕様を使います。理由は、

  • マルチエアコンの屋外機は高性能2.8㎾型と同程度の性能を持っている。
  • 風量を大きく出来ない、現実的なエアコン運転では室内機の違いは効率にそれ程影響しない。
  • 暖房時の室内機1台運転では、マルチエアコンの屋外機(熱交換器)は一部しか使われていない為、100%の性能が発揮されていない可能性があり、暖房性能が低めになっている。冷房時は室内機1台運転でも室外機(熱交換器)の部分使用は無い。

我が家のマルチエアコンの難点は最小出力、最小消費電力が大きい事です(それぞれ1.73㎾と0.37㎾)。原因はエアコン出力に直接関係ない消費電力が高い事と推測します。高出力運転ではそれ程効率に影響しませんが、低出力ではそれなりの影響があります。冷房出力が1.5㎾~2.0㎾程度であれば、この「固定電力消費」が低い方が有利です。

冷房用エアコン機種の選定

下図は義気温度25℃の時の冷房出力と消費電力を数種類の機種で推測したものです。出力が2.5㎾以上では性能の違いが明らかですが、2.0㎾以下ではそれ程大きくありません。出力1.75kWでの高性能4.0㎾型と2.5㎾型の消費電力の違いは40w程度です。
我が家のマルチエアコンは低出力で効率が大きく落ちます。固定消費電力が他機種に比べ大きいからです(マルチエアコンの出力2.5㎾以下の部分は推定です)。高性能2.5㎾に変更した場合、消費電力は現在の平均350wから300w以下になるはずです。

どこまで効率を追求すべきか

エネルギー効率だけを考えるなら、違いは小さいとは言え、高性能4.0㎾型を選ぶべきです。暖房用エアコンのブログに書いた様に、なるべく冷媒が少ない事も重要です。自身の経験では冷房用エアコンが度々、腐食による冷媒漏れを起こしています。せっかく高性能機種を導入して電力消費と温暖化ガス排出を減らしても、1回の冷媒漏れで削減量以上の温暖化ガスを排出してしまいます。

ベーシック
2.8㎾型
ベーシック
3.6㎾型
ベーシック
5.6㎾型
 高性能 
 2.5㎾
 高性能 
 2.8㎾型
 高性能 
 4.0㎾型
10年間電力消費削減(kWh)1,0001,4002,0001,7002,0002,400
10年間CO2排出削減(kg)400560800680800960
冷媒量(kg)0.630.680.980.861.071.2
冷媒漏れ温暖化ガス排出増(CO2kg)212230330290360405
温暖化ガス10年間収支(CO2kg)①188330470390440555
温暖化ガス10年間収支(CO2kg)②-2410014010080150
温暖化ガス10年間収支(CO2kg)③-236-130-190-190-280-255

上表は我が家の冷房環境でマルチエアコンを置き換えた場合の消費電力と二酸化炭素排出の削減量、冷媒漏れによる温暖化ガスの排出量をまとめたものです。

  • 10年間電力消費削減量は我が家のマルチエアコンと比べたものです。
  • 冷媒漏れ温暖化ガス排出増は冷媒の半分が漏れ出た場合の数値です。
  • 温暖化ガス10年間収支は10年間削減量から冷媒漏れ温暖化ガス排出量を引いたものです。①、②、③はそれぞれ10年間で1,2,3回の冷媒漏れがあった時の収支です。

高性能機種ほど冷媒量が多く、冷媒漏れの場合はより多くの温暖化ガスが放出されます。冷媒漏れが無ければ、最高性能機種を選べば良いですが、10年に1回の漏れでも、機種間の違いは小さくなります。3回冷媒漏れが起きればベーシックモデルの方が良い事になります。
冷媒漏れのリスクが小さければベーシックモデルの5.6㎾型と高性能2.8㎾型が良く、大きければベーシックモデルの3.6㎾型と高性能2.5㎾型が良くなります。

まとめ

  • 高気密高断熱住宅は暑くありません。一般住宅に比べピークの冷房負荷が小さくなり、安定した冷房運転が可能になります。
  • 全熱交換器型換気、遮光と組み合わせると冷房負荷を2/3に削減出来ます。
  • 標準的な住宅の場合、高気密高断熱住宅+全熱交換器型換気+遮光によって、平均冷房負荷は1.5kW程度(最大2.3kW)になり、小型のエアコンでも経済的に全館連続冷房が可能です。
  • エネルギー効率を重視して冷房用エアコンを選定する場合、ベーシックモデルの3.6㎾型か高性能2.5㎾型が妥当です。
  • より大きな機種で効率を改善する事は可能ですが、冷媒量が大きい為、冷媒漏れの際の温暖化ガス排出のリスクが増えてしまいます。

ベーシックモデルか?高性能モデルか?

前回のブログで高性能モデルは大きめのベーシックモデルとあまり変わらないと書きました。
ならば大きめのベーシックモデルにこだわらず、高性能モデルを選べば良いと言う意見も多いと思います。実際、市場価格も殆ど変わりません(ベーシックモデル5.6㎾型と高性能モデル2.8㎾型)。
2000年頃までにエアコンの高効率化はほぼ完成しました。2000年以降は温暖化係数が低いR32冷媒の採用と再熱除湿機能以外、大きな技術革新はありません。
色々と追加機能が宣伝されていますが、本当に有益か疑問です。製品が複雑になり、メーカーのコストが上がってしまいます。上がったコストを減らすために、本来するべきでないコスト削減が行われる可能性もあります。
自動掃除機構、熱交換器の大型化のために室内機の奥行きは40㎝近くまで大きくなりました。
高性能モデルには多くの機能が付いてきます。シンプルで圧迫感が少なく高効率なエアコンを求める人には大きめのベーシックモデルしか選択肢が無いのです。

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