ヨーロッパの国民は高断熱住宅を支持、知識が広まらずコンセンサスが取れない日本
日本とヨーロッパの新築住宅基準を比較すると、日本住宅のエネルギー消費基準はヨーロッパ住宅の2倍以上である事をお説明しました。この比較は日本の住宅が部分間歇暖房の場合です。全館連続暖房にした場合のエネルギー消費はヨーロッパ住宅の3倍以上になります。
これほど大きな差が出来てしまったのは、国の基準が20年以上変わっていないからです。日本が停滞している間にヨーロッパは大きく前進し、nZEBの義務化が2021年から始まっています。数十年前までは夢物語だった住宅が「普通」に建てられているのです。コストは少し上がっていますが、数十年で回収できます。
ヨーロッパでは5~10年おきにエネルギー基準が改定され、住宅の性能がドンドン改善されています。コストを抑えながらの性能改善要求に住宅業界は抵抗するときもありますが、おおむね前向きです。国民も省エネ、低炭素社会を支持し、強い関心を持っています。住宅の高性能化は省エネに寄与するだけでなく、より良い住環境を提供してくれる事を理解し、そのような住宅を望んでいます。当然ながら住宅の基本性能は住宅選択の重要な要素です。消費者の知識が高い為、知識が少ないハウスメーカーは選択肢から外されてしまいます。義務化された基準はハウスメーカーのレベルを底上げし、知識が少ない消費者を守ります。
義務化基準以外にもレベルが高い次世代基準が豊富に整備されています。より高い基準の達成に対して補助金を設けることで、より高性能な住宅の開発と量産化を後押ししています。
政府は前向きな基準と補助金の整備、ハウスメーカーや窓メーカーは高性能製品の開発、施主は高性能住宅への投資をする事で好循環が作り出されているのです。
日本にも住宅性能基準や補助金と言った仕組みは存在しますが、ヨーロッパの様な好循環は生まれていません。
日本にも積極的なハウスメーカー、工務店、建築家は存在し、高性能住宅を望んでいる人達もいますが、未だ少数派です。省エネや低炭素社会への関心は高まっていますが、具体的な方法に関しては知識が広まらず、十分コンセンサスが取れていません。高性能住宅に積極的なハウスメーカーや建築士などと話しても、考え方や手法に違いがあり、消費者は混乱してしまいます。その上、高断熱住宅に否定的なハウスメーカーや建築士も多い為、消費者はますます混乱してしまいます。結局、資金力と情報発信力が高い住宅設備・家電メーカー主導の、設備だよりの住環境改善と省エネが主流となっているのです。
ヨーロッパでの地球温暖化への取組は環境保護の流れを受け、一般市民によって始まりました。ヨーロッパ諸国の政府は、世論に背中を押されながら省エネに取り組み、明確な方針、目標、手法を打ち出しています。この為、持続可能な社会をつくるための政策は、国民から評価と協力を得ることが出来ます。
持続可能な社会への意識が成熟していない日本では、同じ政策が余分な負担としてとらえられてしまっています。仕組みはそれなり作りましたが、20年経っても明確な目標や方針が出来ていません。
目先の経済的影響を気にする日本、変革をチャンスと見るヨーロッパ
国(日本)が断熱基準、エネルギー消費基準を義務化しない理由は、建築業界や消費者への影響と言われています。高気密高断熱住宅の知識が少ない中小工務店が多く、基準の義務化はこれら中小工務店に打撃を与える恐れがあると言う事です。低予算住宅を多く手掛ける中小工務店は、性能アップによるコスト高が、住宅需要の減少につながると心配しています。予算に余裕が無い、若年層のマイホームに影響が出ると言う心配もあるようです。
スペインやイタリアでも中小工務店の知識不足と資金力不足が、nZEB実現の課題と認識されています。先進地域の北欧やドイツと比べ、中小工務店に限らず、政府、建築家、学会の知識と経験も少ないと言う認識です。先行している北欧、ドイツに追いつき、夏場の住環境にも適応したnZEBを、2021から義務化することは大きなチャレンジとされていました。義務化への懸念はありましたが、2021年から計画通り始まりました。
目先のリスクを恐れ、日本は先延ばしを選びました。ヨーロッパは長期的なリスクを減らす事と変革による成長の機会を選んだのです。
地球温暖化・省エネに対して積極的に取り組むことをヨーロッパはチャンスととらえています。高い目標を追求することで技術革新を起こし、経済の活性化を目指しています。
中小工務店を守るため、数年程度基準を据え置く事はあり得ますが、20年の据え置きは問題外です。結果的に、消極的な企業の能力アップが行われないまま、積極的な企業の成長を抑制しています。国が住宅の基本性能改善を後押しないため、設備重視の省エネが主流となっています。建築予算が設備へ流れ、中小工務店の取り分はますます先細っています。体力はますます落ち、新しい取組が難しくなっています。地元の工務店は地域にとって重要な役割を担っています。消極的な問題先延ばしではなく、国と地方による積極的な後押しが重要です。
中途半端で魅力が少ない現行省エネ基準
新築戸建住宅の断熱性能基準達成率は2015年時点で58%でした。この低い達成率が制定から20年過ぎても義務化が進まない理由でもあり、より高性能な基準を出さない理由でもあります。この20年でヨーロッパの住宅性能は大きく改善され、スウェーデンの新築住宅の一次エネルギー消費基準が東京より少なくなっています。エネルギー消費だけでなく、住環境にも大きな差があります。スウェーデンの住宅は全館連続暖房ですが東京は部分間歇暖房です。
ヨーロッパでもnZEBが支持を得るには省エネ以外の魅力が必要です。優れた温熱環境、ライフラインが止まった時の安全性、設備更新コストの低さなどがセールズポイントとなっています。
日本でも温熱環境の改善をセールスポイントにしていますが、部分間歇暖房前提の緩い性能基準のため、それ程大きな改善ではありません。足踏み状態の現行基準は、日本の脱炭素目標を達成するには不十分で、さらなる改善が必須です。先進的な性能を目指すハウスメーカー、工務店、施主を支援し、本当の高性能住宅が普及しなくてはいけません。先進的な住宅が増えれば、その良さが認知され、あとを追うものが増えていきます。知識と経験も蓄積されるので、コストも下がります。先頭集団を前に行かせることで、後続集団を引き上げると言う事です。
現行の省エネ基準は今となっては中途半端になりました。全館連続暖房をするには断熱性能が不足しています。部分間歇暖房ならヨーロッパのnZEBと同程度の暖房エネルギー消費ですが、住環境は劣り、改善するには、床暖房などの付加暖房機器が必要で、設備コストとエネルギー消費も増えてしまいます。高齢になって在宅時間が増えてもエネルギー消費が増えます。
現行基準は既に技術的、コスト的にも簡単に実現できるレベルです。20年前に義務化されていれば、それなりの役割を果たしていたはずですが、現在の目標としては低すぎます。
省エネ基準を満たさない新築と比べれば、エネルギー消費と住環境は改善されますが、大きな魅力を感じるほどではありません。基準より若干性能が高い新築も多くありますが、現行基準の存在が「これで十分」と言う安心感を与え、より性能が高い住宅の普及を阻害しています。
古くなった省エネ基準の100%普及に固執するのではなく、低炭素社会を実現する、より積極的な省エネ基準を作る必要があるのです。
省エネ住宅の主役は施主、工務店、ハウスメーカー、窓メーカー、建築士
ヨーロッパのnZEBの基本は断熱性能、気密性能などの基本性能を極力改善し、暖房設備を小さくすることです。設備の小型化によるコスト削減で、断熱と気密の追加コストを極力相殺します。このアプローチは先行したパッシブハウスから継承しています。多くの学者、業界関係者、政治家が議論を重ねてたどり着いたアプローチです。パッシブハウスなどの先端事例から多くの経験を得た結果でもあり、住環境も優れていることが実証されています。
日本ではこの40~50年、住環境造りの主役は工務店、ハウスメーカーではなく、アルミ枠窓メーカー、エネルギー会社や設備・家電メーカーでした。設備・家電メーカーは膨大な予算を使って製品を宣伝し、設備業者を教育しました。建築士は魅力的な間取りを提案し構造計算を行い、工務店は箱を作り、設備業者が最新の設備を取り付ける事で施主が満足する家が出来上がりました。魅力的な家の条件は断熱・気密などの基本性能ではなく、間取りと設備によって定義されました。
国やエネルギー関連会社は、増大するエネルギー需要の安定供給に努め、工務店、ハウスメーカーは設備の魅力によって家の魅力をアピールしてきたのです。
nZEBのアプローチは、1950代から始まったヨーロッパでのセントラルヒーティングの普及や日本でのルームエアコンの普及とは違います。nZEBは中小工務店・ハウスメーカー、窓メーカー、断熱材メーカー、建築士によって実現されます。エネルギー基準を満たしているか否かの検証は地方自治体が行う必要があります。冷暖房設備も重要ですが、主役ではありません。主役は基本性能が高い建物とそれを実現する人や会社です。
セントラルヒーティング、ルームエアコンの普及は石油、天然ガス、電力の消費拡大を狙ったエネルギー会社とセントラルヒーティングやルームエアコンの売上拡大を狙った設備・家電メーカーによって推進されました。住宅のエネルギー性能が低い事はエネルギー需要が増え、より多くの設備が必要になるので好都合だった面もあります。日本、ヨーロッパ、北米で実現した住環境の改善はエネルギーの大量消費と便利な冷暖房設備の普及によって実現したのです。国にとっては経済成長と生活向上がもたらされました。増大したエネルギー需要を安定供給でき、環境に悪影響が無ければ問題ありません。しかし実際には発展途上国の経済成長でエネルギー需要は益々増え、エネルギーの安定供給が難しくなり、環境にも大きな影響が出始めています。今までの仕組みを抜本的な変える必要が出てきたのです。
石油危機以降、国は省エネに力を入れるようになり、欧米同様、設備の効率化と建物の断熱性能改善を目指しました。設備・家電の省エネは、大手メーカーを対象に、トップランナーと言う制度を作り、世界的に大きな成功を収めました。高い省エネ性能も手伝い日本のエアコンは世界中で高いシェアを獲得しました。この成功体験が今必要な建物自体の高性能化の足かせになっています。
国と地方自治体の知識、経験、人材不足が住宅の高性能化を遅らせています
設備と対照的に、住宅の断熱性能改善はうまくいっていません。ヨーロッパと比べ20~30年遅れてしまったことは既に説明したとおりです。設備重視からの脱却は住宅メーカーや建築士が自分達の付加価値を拡大する絶好のチャンスですが、中々変化がおきません。
日本の家造りを担うハウスメーカーや工務店の多くが零細で高齢化が進んでいる事が大きな原因です。企業の体力も限られ、新しい事へのチャレンジが難しくなっています。
建築士も似た状況です。省エネ住宅に関しては工務店や現場の職人を指導するだけの知識が十分ありません。大学等の研究機関も人材が足りない為、建築士の再教育が出来ません。
国や地方の行政機関にも人材が足りない為、技術指針や法整備が遅れています。基準が整備されたとしても、実際の建物を評価できる人材が十分いません。
国が抜本的な対策をとって地方や零細工務店を積極的に支援し、能力を引き上げない限り、資金力と人材が豊富な大企業に頼るしかないのが現状です。現に省エネ基準、長期優良基準を達成している住宅の多くは大手が建てたものです。性能が高く価格が高い住宅は大手が作り、性能が低く安価な住宅は零細工務店が作ると言う階層化が進む悪循環に陥っています。
中小のハウスメーカーの中にはヨーロッパのnZEBのような住宅を目指している所もありますが、現行の基準や誘導政策のレベルが低いため、性能に見合った評価を得ることは出来ません。能力がある企業の成長機会を生かせていないと言う事です。
国が頼りとしている大手ハウスメーカーや窓メーカーの製品も、多くが物足りないのが現状です。
国や地方自治体が足りない知識や人材を補強しないまま、資金と技術が乏しい零細工務店・ハウスメーカーを守る現状は現状維持でしかありません。零細工務店やハウスメーカーの経営者や職人の高齢化を考えると、先進的な取り組みをし、成長力がある工務店やハウスメーカーを後押しする必要があります。国や地方自治体の能力を高める事は時間もお金もかかります。国が最低限しなくてはいけないことは、高性能住宅が評価されるような性能基準を早急に整備する事です。
なかなか動かない大手ハウスメーカー、窓メーカー
剛床工法の普及で在来工法の断熱性能は大幅に改善し、ウィークポイントは窓になり、アルミ樹脂枠窓が住宅の高性能化を妨げていることを既に説明しました。北海道では樹脂枠窓が普及していますがその他の地域ではアルミ樹脂枠窓が主流です。日本の主要窓メーカーの殆どがアルミ素材の製造・加工を起源としているからかもしれません。アルミ樹脂枠窓から樹脂枠窓への移行は製造設備の大幅な変更が必要なため、巨大な投資を必要とします。国内窓メーカーは当然抵抗し、国も性能基準の厳格化をためらいます。ヨーロッパでは1950年代にアルミ枠窓が試されましたが、結露が問題となり樹脂枠窓が主流になりました。この為、窓の高性能化には、それ程抵抗が無く、成長するチャンスととらえています。樹脂枠窓の高性能化により「断熱改修」と言う巨大な市場が出来ました。既に新築用窓の2倍以上の需要があり、既存建物の断熱改修を急ぐヨーロッパでは、もっと伸びるとされています。ヨーロッパでは窓メーカーがこの大きな市場を狙って技術とコストの両面で激しく競争しているのです。
断熱改修市場の成長で拡大するヨーロッパの高性能樹脂枠窓に比べ、日本の窓需要は殆どが新築用です。住宅建設数は穏やかに減少しているので、窓メーカーは積極的な設備投資をためらいます。主要3メーカーは国内が主な市場の為、それ程競争する必要もありません。政府や消費者がより性能が高い窓を積極的に要求しない限り窓メーカーは動かない(動けない)と言う事です。
今の状況を変えるには国が積極的に働きかける必要がありますが、
窓の断熱性能基準はアルミ樹脂枠窓を前提としています。ヨーロッパの様に数十年前から意欲的な目標を設定していれば、今頃全く違った窓が流通していたかもしれません。
資金力がある大手ハウスメーカーが、高性能住宅のマーケットリーダーになる事を期待するのが合理的です。国は大手に対しては省エネ基準の厳守を求め、大手ハウスメーカーの住宅は実際、省エネ基準を満たしています。問題は省エネ基準のレベルが低いと言う事です。殆どの大手ハウスメーカーは現行省エネ基準を大きく上回るような住宅には挑戦していません。窓メーカーがアルミ素材の製造・加工を起源としている様に、大手ハウスメーカーの多くは鉄骨住宅を起源としています。鉄骨住宅で高断熱化を実現するのが簡単でないからかもしれません。
木造専門の大手ハウスメーカーもありますが、多くは技術や施工よりマーケティングや販売に重きおいた営業主導の会社です。意匠やイメージで成長してきたので、積極的な性能改善を期待する事には無理があります。
知識、経験、人材に限りがある国や地方自治体が、大手ハウスメーカーや窓メーカーに頼らざる負えない状況です。零細工務店・ハウスメーカーの底上げまでは出来ませんが、大手ハウスメーカーや窓メーカーが先進的な製品を出していれば、施主の意識・期待に影響を及ぼすことは可能なはずです。しかし、大手ハウスメーカーや窓メーカーの事情を考慮すると、彼らが自ら高性能化を進め、業界全体を引っ張る事は期待できません。
この結果が20年以上更新されず、いまだ達成されていない省エネ基準であり、ヨーロッパと比べ断熱性能が低く、いまだ部分間歇暖房を前提とした日本の新築住宅です。
ルームエアコンによる部分間歇暖房の成功体験、断熱化の失敗体験、国・地方自治体の人材欠如、零細工務店・ハウスメーカーの体力不足が停滞の原因です
便利な電気やガスの大量供給とルームエアコン、ファンヒーターによって日本の家の住環境は大きく改善しました。効率が高いルームエアコンと部分間歇暖房方式を採用することで、ある程度の快適性を得ながら先進国で最も低い暖房エネルギー消費が実現したのです。
ルームエアコン、ファンヒーターの貢献に比べ、住宅の断熱化は十分な効果を出すことが出来ませんでした。断熱材を施工したにもかかわらず壁内の空気の流れによって、現実的には無断熱に近かったのです。問題が十分に解決されないまま年月が経過し、剛床工法の普及でやっと解決されたました。国、地方自治体、学会、住宅業界が真剣に取り組まなかった事が大きな原因です。
壁面が断熱性能を発揮できないままでは、窓の断熱性能を改善してもそれ程効果はありません。この為、窓の断熱性能改善は進まず、結露の抑制が主目的となりました。
施主、住宅業界関係者がいまだ高気密高断熱住宅に対して懐疑的な理由は、この失敗体験です。欧米でも高気密高断熱住宅の導入初期は、壁内結露による構造材の腐りやシックハウスと言った問題を経験しています。その度に原因を調べ、解決していった経緯があります。欧米の政府はその度に業界を指導し、法律を改正し、問題の再発を防止しました。
ルームエアコンやファンヒーターで改善した住環境を経験した人々は、より良い住環境を求めます。部分間歇暖房を続ける限り、住環境改善にはより多くの補助暖房機器が必要となり、ルームエアコンの効率改善は既に頭打ちの為、さらなる省エネは期待できません。より多くの補助暖房機器をそろえたとしても部分間歇暖房の欠点を根本的に解決出来るわけではありません。
高性能窓と熱交換器型換気による高断熱化と全館連続暖房が最良の方法ですが、20年以上前に出来た断熱性能基準がいまだ達成されていない為、国は基準の義務化、引き上げを先延ばししています。住環境のさらなる改善と言う要求を満たすため、年々設備が増え、建築費を圧迫し住宅基本性能の改善を難しくしています。購買力が年々増える時代なら、住宅設備を増やしながら基本性能を改善する事が可能ですが、購買力が頭打ちの今、片方を増やすともう片方が犠牲になります。零細工務店・ハウスメーカーの利益はますます減り、性能が高い住宅の供給を難しくしています。多くの暖房機器で住環境は改善しますが、10~20年毎に設備を更新す必要があり、定年後には大きな負担となります。高額な設備更新コストが定期的に発生する為、建物の資産価値は年月と共に下がっていきます。子供、孫、ひ孫の世代に残せる資産とは言えません。欧米や日本などの先進国は、安価なエネルギーと次々に開発される便利な設備によって住環境を劇的に改善してきました。日本ではこの成功体験が足かせとなり、住宅業界・施主の建物軽視・設備重視からの脱却が進まない要因となっています。
欧米と同様、国は住宅の高断熱化、長寿命化は、既に基本的な目標としています。
零細工務店・ハウスメーカーを技術的に支援する人材、能力が不十分なため、目標を長年達成できず、性能基準が20年以上据え置かれ、今まで通りの設備・家電メーカー頼りの政策を続けています。続けていると言うより続けざる負えないのかもしれません。
設備・家電メーカーは製品の省エネ化には取り組みますが、設備重視から住宅基本性能重視への転換を先導する事はありません。大手住宅メーカー、窓メーカーに先導役としての期待がかかりますが、鉄骨造とアルミ枠窓からの決別が必要なため、積極的ではありません。
戸建住宅建設の多くを担う中小工務店・ハウスメーカーは知識と資金力が十分でなく、国や地方自治体の積極的な支援を必要とします。
欧米に比べ高気密高断熱化が進まないもう一つの理由は、国や住宅業界だけでなく施主(消費者)が高気密高断熱住宅の優位性を十分に理解していないからです。仮に中小工務店・ハウスメーカーが十分な能力を持ち合わせていなくても、施主の要望が強ければ対応せざる負えなくなります。
耐震性能に関しては国が新しい基準を制定する前に学会と業界が積極的に協力して、耐震性能の改善に取り組んできた歴史があります。大きな地震の度に国民の関心が高まり、耐震性能が選定の重要な要素となるからです。耐震基準が改定される前により強い建物が建てられる為に、義務基準を超えた等級2、等級3(ひんかくほう)の設定がが可能となります。
購買力が伸びず、高齢化している零細工務店・ハウスメーカーが多く、国や地方自治体にも十分な知識と人材がいなく、施主の理解が低い事が、日本住宅の高性能化を遅らせています。
日本の断熱、エネルギー消費基準が欧米に比べて低いのは、国、地方自治体、住宅業界の内部事情による上記の状況が主な原因です。合理的な理由からではありません。
これら内部事情が改善されず数十年が経過した事が、欧米に20~30年遅れてしまった最大の理由です。
日本住宅は先進国で唯一、数十年で資産価値を失ってしまいます。持ち主にとっても、社会にとっても、環境にとっても大きな損失です。日本の新築の質は確実に改善しています。安全性(耐震性能、防火性能)と耐久性は改善し、適切なメンテナンスをすれば最低100年は使えます。残るは快適性、省エネ性能と設備更新コストの低さです。安全性と耐久性を備えていても、快適でなければ、価値は大幅に下がります。50年後、100年後には、より快適で省エネな家が求められと考えるべきです。
築数十年後、快適性改善に、多くの設備導入を必要とする家は、設備更新コストと光熱費が高くなり、価値は下がってしまいます。
住宅の基本性能を妥協し、設備に多くの予算を費やした家ほど、将来の価値は下がってしまいます。
基本性能を極力改善し、設備と光熱費を小さくする方法が最も合理的です。