暖房負荷、住環境、建物の寿命に影響する気密性能: 日本には基準がありません
断熱性能を改善すると漏気と換気による熱損失の割合が増える事を説明しました。外皮(壁、屋根、床、窓)の断熱性能同様、気候が寒冷なほど漏気と換気の影響が大きくなります。ヨーロッパの殆どの国には気密性能基準があり、義務化されています。
気密性能は建物のエネルギー性能評価に組み込まれている為、より高い評価を得ようと、施主は義務化基準以上の性能を目指します。気密性能は建物の重要な性能の一つと認識されているので、気密性能測定は多くの国で義務化されています。英国は気密性能基準が最もあまい国の一つですが、気密測定は義務化されています。最低基準が約2.8cm2/m2(日本で使われているC値換算)に対して実力値は半分の1.4cm2/m2程度です。
気密測定が義務化されていない国でも、高い性能等級達成の為、自主的に実施する場合が増えています。ドイツは義務化していませんが、殆どの新築建物で気密測定が実施されています。
基準は寒い国ほど厳しく、北欧はC値換算0.2~0.5 cm2/m2、フランスやドイツなどの西・中央ヨーロッパ諸国では0.2~1.0 cm2/m2が一般的です。C値1.0 cm2/m2は第3種換気に適用され、熱交換器を使う場合は0.5 cm2/m2が適用されます。
主要国の中で気密性能基準が無いのはスペインです。隙間が出来やすい壁と窓の接合部の目視検査以外は必要ありません。石、ブロック、コンクリート造りの建物が多い為、隙間が出来にくいと言う背景もあります。
日本には気密性能基準がありません。現行の省エネ基準に限らず、より高性能なZEHやHEAT20にもまだありません。本来断熱性能と気密性能はセットとして定義すべきですが、片方が抜け落ちていると言う事です。
東京が入る6地域で高性能樹脂枠窓と熱交換器型換気を採用すると、部分間歇暖房と同程度の暖房負荷で全館連続暖房が可能な事を説明しました。この性能は、ローマ(イタリア)のnZEB性能と同程度です(UA値: 0.39W/m2/K)。日本で高気密とされるC値: 1.0cm2/m2の場合、漏気による熱損失は、熱交換器を使ったときの換気熱損失と同程度になります。C値:が2.0cm2/m2であれば、漏気による熱損失は換気熱損失の2倍になってしまいます。熱交換器で熱損失を削減しても漏気によって余分な暖房負荷が発生してしまうと言う事です。温暖な6地域でも気密性能は暖房負荷に影響し、暖房負荷が数十パーセント増加してしまうかもしれません。
気密性能基準がない事は、東北や北海道ではより大きな問題です。漏気は住環境と建物の寿命にも影響します。漏気箇所は温度が低くなるため結露し、カビが発生しやすくなります。躯体内部(壁の中)で結露が起きる可能性があり、躯体の木材が腐る可能性が高くなります。コンクリート、石、レンガ造りの建物なら腐りませんが、木造の場合は致命的です。
在来工法で一般的だった根太工法で、間仕切壁や外壁の中で空気の流れが出来てしまうことを説明しました。間仕切壁内、外壁内の空気の流れも一種の隙間風です。熱損失を大きくするだけでなく、壁内結露を引き起こします。北海道では、断熱材が使用され始めた頃、この壁内結露によって多くの家が腐ってしまいました。壁内結露によって腐ってしまった土台や柱に「なみだ茸」が繁殖しました。間仕切壁、外壁の気密性が不十分だった事が原因ですが、高気密・高断熱が良くないと言う考え方が広まってしまい、いまだそう思う人達がいます。
ヨーロッパで気密測定を行う際には、遠赤外線温度測定カメラを使って漏気箇所を特定します。早い段階で建物の欠陥を発見し改修する事が出来るのです。