「エアコン1台で全館連続暖房」を信じ難いと思う人は多いと思います。今と20年前の在来工法を比べると、壁厚は一緒で断熱材が多少良くなった程度ではないか。窓と換気を見直すだけでそれ程効果があるのかと疑うのは当然です。問題は断熱材が設計通りに効果を出せていなかったからです。それどころか熱の流出が無いはずの間仕切壁から、大量の熱が失われていたのです。原因は在来工法の伝統的な「根太工法」という床の張り方と、石膏ボードの張り方にあります。

間仕切壁が部屋を冷やす根太工法

間仕切壁内の空気の流れ

在来工法では根太と言う木を土台と大引の上に載せ、その上に床板を張っていきます。昔は柱の間に土壁を入れていたのですが、1960年代から石膏ボードが張られるようになり、間仕切壁の中に煙突の様な空洞が出来ました。床下の空気は根太で出来た隙間から間仕切壁の中に入ることが出来ます。
壁の中の空洞は1階天井裏に繋がり、2階の外壁、間仕切壁の中の空洞に繋がります。

小屋裏へ続く空気の流れ

2階の壁の空洞は小屋裏(二階天井と屋根の間の空間)に繋がっています。床下と小屋裏は外気とつながっている為、壁の中を自由に外気が行き来できるのです。
部屋を暖房すると、石膏ボードが温まり、壁の中の空気を温めます。暖かい空気は上昇し、小屋裏から外へ抜けていきます。上昇する暖かい空気に代わり、床下から冷たい空気が入り込み、壁から熱を奪うのです。1970年代の石油危機以降、外壁、天井裏、床下に断熱材が施工されるようになり、外壁や天井から直接外に逃げる熱は減っていきます。
しかし間仕切壁からは相変わらず多くの熱が失われ続けました。1階の天井裏も外気と繋がっている為、1階天井からも多くの熱が逃げていきます。この為、天井温度は低く、床を温めることが出来ません。せっかく暖房しても内壁温度が低い為、空気温度を上げるしかありません。扉を開けて暖かい空気を逃がすと、部屋の中はあっという間に寒くなります。外壁も上下で外気とつながっている為、断熱材の効果は低下します。
廊下は両側を間仕切壁で囲まれています。石膏ボード1枚で外気と接しているようなものです。1970年代以降、断熱材の厚さが増えていったのに、大きな改善が見られなかったのはこの為です。
* この問題は以前から学会や業界の一部の人達は認識していました。空気の流れを減らすための改善策を一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会や断熱材メーカーが提案しています。しかし煩雑で現場の工数も増え品質を確保も簡単ではありません。