暖房負荷削減以外にもメリットがある全熱交換器型第一種換気
部分間歇暖房をすると、暖房空間の湿度が家中に広がり、無暖房空間の冷えた表面で結露すると説明しました。暖房空間の湿度を上げようとすればする程、無暖房空間の結露が増える悪循環になります。部分間歇暖房が抱える大きな欠点です。
全館連続暖房にすると結露(湿気)の問題は無くなります。しかし換気で室内の貴重な水蒸気が屋外に失われ、冷たく乾燥した外気が入ってきます。熱を失うだけでなく、貴重な水蒸気も失っているのです。
人口の大半が住む太平洋岸地域の冬は乾燥しています。冬の外気を室温まで暖めると、湿度は20%になってしまいます。人の活動による水蒸気の加湿(1日5リットル程度)を考慮しても湿度は30%以上にはなりません。
最低でも40%を保つためには、加湿をするか、外に捨てる空気から、温かさ(顕熱)だけでなく湿度(潜熱)も回収出来る、全熱交換器を使います。温かさ(顕熱)と湿度(潜熱)を75%回収出来れば、室内の湿度は50%程度に上がります。
全館連続暖房された高断熱の家は、部分間歇暖房より数段高いレベルの居心地を提供してくれます。家中の温度が均一で、壁、床、天井温度が安定した家に住むと、ちょっとした温度差も気になります。第三種換気で生ずる、冷たい外気の流れ込みに心地悪さを感じます。熱交換器型第一種換気では外気が暖められる為、そのようなことはありません。
夏場においても全熱型熱交換器は役立ちます。せっかくエアコンが除湿するのに、乾燥した空気が換気で屋外に捨てられ、湿った外気を取り込んでしまいます。結果的にエアコンの除湿量が増え、冷房負荷が増えます。その割には室内湿度が下がらない為、室温を低くめにする必要があります。全熱型熱交換器を使えば室内に入り込む水蒸気が減るので、エアコンの除湿量が減り、冷房負荷も減ります。室内湿度が下がる為、室温を高めに設定する事が出来ます。
殆どの家で採用されている第三種換気の問題点を見てみましょう。
隙間風とあまり変わらない第三種換気
外気の吸入口の近くでは、隙間風と同様に冷たい空気を感じ、心地悪さがあります。
外から入る重たい冷気は下に落ち、床を冷やします。外の温度が低くなると、家の中の軽い暖気は高い所から外に出ようとします。
• 2階寝室の吸気口からの吸気(①)と、1階の排気口(②)からの排気が減り、
• 1階給気口からの吸気(③)と、2階排気口からの排気(④)が増えます。
• LDにはより多くの冷気が流れ込むため、床はより冷たくなります。
風向きにも大きく影響されます。
• 排気口がある壁に風が当たる場合は、ファンの排出が風に相殺され、排気量が減ります。
• 反対に、風が給気口がある壁に当たる場合は、必要以上の換気になり、家が冷えてしまいます。
内外温度差や風に大きく影響される第三種換気は計画換気ではありません。外気を直接居室に取り込むため、部屋の中にすきま風があるようなものです。
全熱交換機型第一種換気の仕組み
熱交換器型第一種換気は排気口と給気口を同じ高さ、同じ壁面に取り付けるため、内外温度差と風の影響を受けません。部屋に取り込まれる外気も16℃以上に暖められ、不快感は大幅に減ります。熱交換器は単に暖房エネルギーを削減するための設備だけではなく、住環境をより快適にするための設備です。
熱交換器型換気がなかなか普及しない理由: 全館連続冷暖房と高気密が前提条件
熱交換器型第一種換気は冷暖房負荷の削減と住環境の改善に有効であることを説明しました。しかし、熱交換器型第一種換気の導入率は少ないのが現状です。
最大の理由は殆どの家で全館連続冷暖房が行われていないからです。
部分間歇冷暖房を行う場合は、熱交換器型第一種換気の利点はあまり発揮されません。
熱交換器型第一種換気では、外の新鮮空気は居室に供給され、室内の排気は廊下等の非居室空間から回収されます。
部分間歇暖房を例にすると廊下の温度は高くても13℃程です。この空気で5℃の外気を暖めると11℃になります。全館連続暖房の時は廊下も20℃なので16.7℃まで外気を暖める事が出来ます。
湿度はどうでしょうか。部分間歇冷房では廊下の窓は開けている場合が多いので、空気の湿度は外気と変わりません。従って水蒸気の流入を減らす事が出来ないのです。
熱交換器は全館連続冷暖房が前提条件という事です。
隙間が大きい家では、換気による熱損失より多くの熱が漏気によって失われています。
国によって高気密住宅の定義は異なりますが、日本では一般的にC値:1.0cm2/m2以下を高気密と呼んでいます。
熱交換器型換気設備がある気密性能がC値:1.0cm2/m2の家では、 漏気 による熱損失が換気による熱損失と同じになります。せっかく熱交換器によって熱損失を減らしたのに、同程度の熱が漏気によって失われていると言う事です。
ヨーロッパでは熱交換器型換気を使用する場合には気密性能をC値:0.5cm2/m2以下にすることが一般的です。ヨーロッパに限らず日本でもC値:0.5cm2/m2以下にする必要があります。この場合、漏気による熱損失を熱交換器型換気による熱損失の半分以下にすることが出来ます。
熱交換器型換気と気密性能はセットにしなくてはいけませんが、日本には住宅の気密性能に関する基準がありません。気密性が低い家に熱交換器型換気を設置してもおとがめが無く、ハウスメーカー任せになっているのが現状です。国内の換気システムメーカーも明確な基準・ガイドラインを出していません。
せっかく熱交換器型換気を設置したのに住宅の気密性能が不十分なため、期待していた効果を享受できない方々も少なからず居ると思われます。熱交換器の評判が上がらず、普及率が伸びない理由の一つではないでしょうか。