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そろそろエアコンの入替: 全館連続暖房に適したエアコンの選定(その1)

昨年の秋(2021年)に全館連続冷房用の室内機を修理しました。
夏前の試運転時に効きが悪いことが分かり、メーカーに見てもらったところ、冷媒ガスが少ない事が分かりガスを補充して夏をどうにか乗り切りました。秋に検査したところ、熱交換器からガスが漏れている事が判明しました。3年前に交換した熱交換器が今度は3年ももちませんでした。その前の熱交換器は5年もち、もともとついていた物は8年もちました。
修理担当者の方からコントローラーボードの在庫は既に無いのでそろそろ交換を考えるようにと言われました。

我が家の冷房設備は元々部分間歇冷暖房を前提に選定しました。定額6.8kWの屋外機2台に、それぞれ2.8kWの天井埋込カセット式室内機が3台ずつ接続されています。配管はすべて隠蔽配管です。

入居5年後に運転方式を全館連続冷暖房に変更してから、6台の室内機の内、冬は1階の1台、夏は2階の1台しか使わないようになりました。14畳の子供用相部屋は真夏の夜になると2℃近く室温が上がるので、夜から早朝にかけて冷房をかけます。南東向きのこの部屋は、常識的には午前中が暑いはずなのですが温度変化が10時間程遅れます。高断熱住宅の特徴かもしれません。
今の知識で冷暖房設備を設計するならば全く違った物になっていたと思います。
1階に暖房用の壁掛けエアコンを1台、2階に冷房用の壁掛けエアコンを1台です。子供部屋にエアコンを1台追加していたと思います。

新設備で目指すもの

エネルギー消費の削減

我が家の冷暖房用電力消費は暖房に年間1,400kWh、冷房にに年間700kWh程です。
暖房時のエアコン効率は簡易測定の結果から約3.5~4.3程度と推測しています。暖房時のエアコン消費電力は600W±100W程度で安定しています。暖房出力は1.8kW~2.5kWに相当し、おおむね家の断熱性能から推測できる暖房負荷と一致します。エアコンの性能から推測できる効率とも一致します。
冷房は空気を冷やすだけでなく、除湿も行われるので、簡易測定は難しく、実効率は測定できていません。
新しい設備では暖房用電力消費は20~30%、冷房用電力消費は10%の削減を目指します。
20年近く前の設備入替なら20~30%は簡単と思われるかもしれませんが、現実はそうではないのです。1970年代の石油ショック後に始まったエアコンの高効率化は、2000年までにほぼ完了しているのです。20年前のエアコンと言え、今のエアコンとさほど変わりません。下表から分かる様に、電気・動力系統の高効率化は2000年までに終わっているのです。2000年以降の改善は主に室内機、室外機の熱交換器の大型化と送風量の増大と言う方法で実現されています。

エアコン技術発展の系統化調査 (荒野 喆也)から借用

冷媒ガスの排出量削減

現在使用されている冷媒ガスは2010年代から導入が始まったR32です。1990年代末から導入が始まったR410と比べ温暖化係数が2090から675へ大幅に少なくなりました。冷媒ガスは最終的には回収されるはずですが、日本の改修率は30%程度です。我が家では、この19年で3回の冷媒漏れが起き、合計5kgの冷媒が大気に漏れてしまいました。R410冷媒の温暖化係数は2,090なので、10,000㎏以上の二酸化炭素を大気に放出した事に相当します。我が家の冷暖房用電力発電の際に出る二酸化炭素の11年分に相当します。せっかく効率が高いエアコンを導入して二酸化炭素排出量を削減しても、冷媒の放出を止めない限り意味が無いと言う事です。我が家の冷媒漏れはすべて冷房用室内機の熱交換器で起きています。結露水による熱交換器の腐食が原因と思います。暖房用にも同じ型の室内機を19年間使用していますが問題ありません。冷媒漏れの量が多いのは、マルチエアコンには多くの冷媒ガスが入っているからです。1システムには2.6kgのR401冷媒ガスが入っています。冷媒漏れの際にはすべてが漏れるわけではありませんが、最大1.3㎏を補充したこともあります。熱交換器の腐食には連続冷房が大きく影響していると思います。熱交換器が濡れている時間が長いとその分腐食が進みます。エアコンの設計寿命は10年としている物が殆どです(年間、暖房1,183時間と冷房1,008時間を前提)。我が家の冷房稼働時間を1年で約2,000時間です。昨年交換した熱交換器が2年しか持たなかった事を考慮すると心配になってしまいます。同じような事象について高気密高断熱住宅を手掛けるARBRE DESIGNが詳しく報告しています
通常のルームエアコンには0.5~1.2kgの冷媒が入っています。大型の機種ほど冷媒量が多くなりますが、同じ定額出力であれば高性能機種ほど冷媒量が多くなります。数年に一度の冷媒漏れは問題外と思いますが、10年に一度程度の冷媒漏れを想定し、極力冷媒が少ないエアコンを使用すべきと思います。

耐久性

最初の10年間は故障無しで稼働する事が条件です。
全館連続冷房では暖房、冷房とも1年の運転時間が約2,000時間になり、メーカーが前提としている年間運転時間の2倍程となります。しかし冷房用、暖房用にエアコンを分けるので、夏冬の合計運転時間は同じです。
冷房用室内機の冷媒漏れが今までの主な故障ですが、それ以外に両室外機の配線基板とコントローラ基板を12年経過時に修理交換しています。電気部品なので仕方ないと思います。
腐食による熱交換器の冷媒漏れが一番気になる点です。ARBRE DESIGNの情報を見る限り新しい製品でこの問題が多発している様です。暖房用のエアコンでは問題ありませんが、今の状況では冷房用のエアコンの新規購入に関しては慎重にならざる負えません。

風量・静粛性

現行機種は暖房時の風量を「自動」ではなく「強」で運転しています。普段使わない和室の室内機稼働の為、ファンの風や音はそれ程気になりません。リビングの室内機を使わなくなった最大の理由はファンの風が直接体に当たり、心地良くなかったからです。
冷房時の風量は「自動」です。「自動」では除湿を考慮した風量設定がされていると言う理解からです。メーカーは自動風量の具体的な情報を開示していないのであくまでも私の勝手な前提です。
我が家の室内機の最大風量は9.1m3/minで、その時の騒音は37dbです。当時の一般的な性能です。最近の機種は効率を上げるため、風量を大幅に増やしています。モーター、コンプレッサーなどの技術革新は20年前に完成し、さらなる効率改善は室内機熱交換器の大型化とファン風量を増やす事しか出来ないからです。
冷房定額出力2.8kWの壁掛けベーシックモデルの総風量は20年間で9.2m3/minから15m3/minに増加しました。騒音は38dbから48dbに増加しました。高性能機種は20年で13m3/minから17.7m3/minです。冷房定額出力4.0kWの高性能機種の最大風量は22.7m3/min、騒音は55dbです。風と騒音が気になるなら風量を落とせば良いと思うかもしれませんが、そうすると効率は落ち、ベーシックモデルとさほど変わらなくなってしまいます。風と騒音は設置場所である程度対処できますが、限度がある事も理解すべきと思います。
現行機種の37dbで効率の改善を達成する事が理想ですが、現実的にはその様な機種は無く、効率改善の為に+10dbの騒音増を受け入れるつもりです。
壁掛けエアコンと比べ天井埋込カセット型室内機の性能はこの20年で殆ど変わっていません。ファン最大風量が若干増え(9.1→11.1m3/min)、冷媒がR410からR32に替わったことで少しだけ効率が改善したようです。

低負荷での安定性

多少の工夫は必要ですが、典型的な冬日なら我が家のエアコンは安定的に稼働します。暖房負荷が少なくなる冬の初めや終わりに不安定になりがちです。出力が必要以上に上がったり下がったりするようになります。原因は最低出力が大きい事です。室内機1台稼働時の最低出力は1.73kWの為、暖房負荷が少なるとオンオフを繰り返すようになるのです。最低出力を1kW程度に出来れば晩秋や初春でも安定した稼働が可能になるはずです。

再熱除湿

冷房に関しては最低出力が大きい事による不便は感じません。全館連続冷房を開始する要因は気温ではなく絶対湿度です。絶対湿度が15g/m3を超えた時に冷房を開始します。この時期の気温はそれ程高くないので除湿だけをしたいのですが、現行機種では室温も下がってしまいます。今は室温の下がりすぎが嫌で冷房開始時期を遅らせていますが、エネルギー効率が高い再熱除湿があれば使いたいと思います。

コスト

今以上に価格を下げる必要は無いと思います。中でもベーシックモデルの価格は十分良心的と思います。
ルームエアコンの技術が既に成熟している今、追加機能や省エネの為の買換えのメリットは少ないと思います。価格が多少高くなっても耐久性が高い製品を望みます。

エアコン設備の選定

冷暖房負荷とエアコン能力の規格-エアコンのサイズと部屋の大きさの関係

ルームエアコンには2.2(6帖), 2.5(8帖), 2.8(10帖), 3.6(12帖), 4.0(14帖), 5.6(18帖), 6.3(20帖), 7.1(23帖), 8.0kW(23帖)と言った多くの出力があります。この出力と部屋の大きさの「目安」は1965年に無断熱住宅を前提に制定されたもので、いまだに変わっていません。
下表に書いてあるように、冷房、暖房出力はそれぞれ最大冷房負荷と最大暖房負荷です。暑さと寒さが最も厳しい条件で必要な出力です。冷房の条件は気温33℃の時に室温を27℃に冷やせ、暖房の条件は気温0℃の時に室温を20℃に温める事です。エアコンの出力を連続的に変更できるインバーターエアコンが無かった頃の目安です。当時は「最小出力=定額出力=最大出力」だったので、部屋の最大負荷に適した機種を選べばよかったわけです。大きすぎる機種を選んでしまうと、通常運転時にオンオフが多くなり快適性が失われるため、細かい出力分けがありました。

部屋の大きさ(帖)681012141820
最大冷房負荷(kW)- 気温33℃2.22.52.83.64.05.66.3
最大暖房負荷(kW)-気温0℃2.22.83.64.25.06.77.1

現在主流のインバーターエアコンでは状況が全く違います。小型ベーシックモデルでも最小出力と最大出力の比は5以上あり、中型機種では10以上のものもあります。低負荷から高負荷条件に対して連続運転が可能です。昔の様な細かい出力別の機種は必要ないと言う事です。いまだに出力別に多くの機種があるのは昔の名残です。家の断熱性能も1964年から大きく改善したにも関わらず、部屋の大きさと暖房負荷の関係は1964年のままです。エアコン性能評価にAPF(通年エネルギー消費効率)が導入されましたが、東京の気候、無暖房住宅、就寝時以外の連続運転(6時~24時)を前提としています。部分間歇冷暖房での省エネ基準住宅や、全館連続冷暖房での高気密高断熱住宅とは大きくかけ離れた前提条件となっています。

定額冷房出力(kW)2.22.52.83.64.05.66.3
最小暖房出力(kW)-気温7℃0.70.70.70.70.60.6
定額暖房出力(kW)-気温7℃2.22.83.64.25.06.7
最大暖房出力(kW)-気温7℃3.94.14.75.27.59.0
暖房低温出力(kW)-気温2℃2.83.13.54.05.46.5
APF(通年エネルギー消費効率)5.85.75.74.94.95.0
最大送風量(m3/min)14.614.615.013.814.816.3
冷媒充填量(kg)0.480.520.630.680.620.98
ベーシックモデルエアコンの諸元(仕様)

上の表はあるメーカーのベーシックモデルの暖房能力です。最小、定額、最大出力は気温7℃での能力で、暖房低温出力は気温2℃での能力です。定額出力は最大暖房負荷に合わせていますが、環境温度は0℃ではなく7℃になっています。最大暖房負荷に対して十分対応できるかは暖房低温出力で判断します。理由は分かりませんが環境条件が旧来の0℃から2℃に変更されています。
前置きが長くなってしまいました。
結論は、ルームエアコンのサイズ(定額出力)と部屋の大きさの「目安」は高気密高断熱住宅に限らず、殆どの住宅で役に立たないと言う事です。我が家を含め、多くの家で問題なく冷暖房が出来るのはエアコン出力を自由に変える事が出来るからです。しかし、適切に冷暖房が出来ていても、エネルギー効率が最適化されている訳ではありません。

我が家に合ったエアコンの選定

我が家で必要な最大暖房負荷は計算上、約3.3kWです。
1.1kW/m2/℃(Q値) x 165m2(床面積) x 〔21℃(室内温度) – 0℃(外気温度)〕- 0.7kW(内部発熱) = 3.311kW
計算上は上の表の2.8kW以上のの機種で対応できるはずです。APFを見ると2.8kW型がエネルギー効率上最も良いと言う印象を受けますが、そう単純ではありません
2.8kW型と4.0kW型では違う暖房負荷でAPFを評価しています。4.0kWの機種は2.8kWに比べ1.43倍の暖房負荷で評価されます。エアコンの効率は出力が高く、気温が低くなる程(暖房時)下がります。2.8kWの機種は4.0kWの機種の暖房負荷を出力することは出来ませんが、反対に4.0kWの機種を2.8kWの機種の暖房負荷で運転する事は可能です。この時のAPFは4.9でも5.7でもなく6以上になるはずです。
下の表は高性能機種の諸元をまとめたものです。暖房低温出力がベーシックモデルより大分高い事が分かります。概ね2倍程です。高性能機種であれば2.2kWの機種で十分です。APFを見ると4.0kWの機種が7.1で一番よく、次いで2.8kWの機種です。5.6kWと6.3kWの機種は定額出力以外4.0kWの機種と同じです。APFの違いは冷暖房負荷条件の違いが大きな原因と推測できます。同様に2.8kWと3.6kWの機種、2.2kWと2.5kWの機種がそれぞれ同じと言うことになります。性能を見る限り高性能エアコンの4.0kWの機種で最も効率が良くなると言う結論になります。最低出力も小型機種より小さく、低負荷時も問題ないはずです。気になる点は送風量の大きさです。我が家の現行機種の9.1m3/minに比べ、2.2kW機種は15.7m3/min、2.8㎾機種は17,1m3/min、4.0kW機種に至っては22.7m3/minです。ベーシックモデルはそれぞれ14.6m3/min、15.0m3/min、14.8m3/minです。小型機種ではベーシックモデルと高性能機種の風量の違いは小さいですがが、4.0kW機種では大きな違いがあります。騒音も送風量に比例して大きくなるので、出来る限り送風量が少ない機種を望みます。

定額冷房出力(kW)2.22.52.83.64.05.66.3
最小暖房出力(kW)-気温7℃.6.6.6.6.4.4.4
定額暖房出力(kW)-気温7℃2.22.83.64.25.06.77.1
最大暖房出力(kW)-気温7℃6.26.37.37.312.212.212.2
暖房低温出力(kW)-気温2℃4.54.75.95.99.19.19.1
APF(通年エネルギー消費効率)6.66.66.86.57.16.46.2
最大送風量(m3/min)15.717.117.117.722.723.323.3
冷媒充填量(kg)0.860.861.071.071.201.221.27
高性能エアコンの諸元(仕様)

最適な機種選定には設置する家の「代表的」な暖房負荷を知る必要があります。

我が家の暖房負荷

下図はエアコンのAPF(通年エネルギー消費効率)を計算する際に使う暖房負荷と温度毎の暖房時間を示したものです。これは日本工業規格JISC9612に定められています。
色分けされた右下がりの実線は定額出力毎の暖房負荷です。2.2㎾の機種には無断熱の6畳間の断熱負荷が適応されます。黒の実線は我が家の暖房負荷を計算したものです。2.8㎾(10畳間)より多少大きい程度です。
山型をした破線はAPFを計算する時に使う温度毎の年間暖房時間です。これは東京の平均的な気候を基に作られています。山型をした実線は我が家の温度毎の年間暖房時間です(2016~2017年実績値)。山が小さく左(低温側)に寄っています。断熱性能が高い為、外気温が高い時は暖房をする必要が無く、就寝時に暖房を運転しているからです。下図だけを見れば、2.8㎾型のエアコンが最適と言う結論を出すかもしれません。
ひし形の印は各機種の定額出力、丸形の印は中間出力(定額出力の半分)を示したものです。JISC9612の諸条件でエアコンを運転した場合、中間出力付近での運転が最も多い事が分かります。

下図は上図の暖房負荷に暖房時間を掛け、外気温度毎の年間暖房エネルギーを計算したものです。JISC9612の条件では山の中心が7.8℃となります。暖房時のエアコン性能が外気温度7℃を基準にしている根拠です。この時エアコンは、中間出力に近い出力で運転しています。APFを改善するには中間出力時のエネルギー効率を良くする必要があり、各メーカーは実際に中間出力時の効率改善を重視しています。APFは2005年から、定額出力時のCOPに変わってエアコン効率を示す指標となりました。国もAPFを使って省エネの目標値を設定する為、メーカーはより高いAPFを目指すようになりました。
我が家の場合、山の中心は約5℃で、暖房負荷は約2.2kWです。エネルギー効率を最適化するには外気温度5℃、暖房出力2.2kWで最も効率が高い機種を選べば良いと言う事です。仮に外気温度7℃(JISC9612の条件)で2.2kWであれば、3.6kW(暖房中間出力: 2.1㎾)か4.0kW(暖房中間出力: 2.5㎾)の機種となります。外気温度条件の5℃と7℃の違いはそれ程大きくありませんが、実際にはもっと大きな違いが存在します。

JISC9612の矛盾

JISC9612で暖房負荷を計算する時の前提条件は室内温度20℃です。
エアコンの出力、効率を測定する時の条件は室内温度が20℃ではなく、室内機への「戻り空気温度」が20℃と規定されています。
室内温度と戻り空気温度には数度の違いがあります。戻り空気は吹き出し空気の影響を受けるため、室内温度と比べて数度高くなります。我が家の天井埋込型室内機では、戻り空気温度が室温より3℃程高くなります。この温度差はエアコンの出力が大きくなればなる程大きくなります。
エアコンの効率は内外温度差ではなく、室内機の戻り空気温度と室外機の吸い込み温度の差によって決まります。
現実的には「戻り空気温度=室内空気温度」はあり得ないと思いますがJISC9612ではその様に定義ています。仮に「戻り空気温度=空気温度+3℃」とすると、実エネルギー効率は9%程悪くなります。同じ出力で温度差を1℃増やすと効率は約3%下がるからです。
戻り空気温度と室温の差を考慮した我が家の代表的な暖房条件は、外気温度約2℃で暖房負荷2.2㎾に相当します。

温度差がエアコン性能に及ぼす影響

温度差(室内機と室外機の吸込み空気の温度差)が大きくなる程エアコンの出力は減少し、効率も低下します。温度差がエアコン性能に及ぼす影響を示したのが下図です。2.8kW型と5.6㎾型(ベーシックモデル)の外気温度7℃と2℃における出力と消費電力の関係を示しています。温度差が5℃増加すると出力は約13%、消費電力は6.5%減少します。我が家の代表的な暖房条件は外気湿度2℃(相当)、暖房出力2.2㎾です。この条件を外気温度7℃にすると、暖房負荷が2.53㎾(2.2kW/(100%-13%)=2.53kW)となります。4.0㎾型エアコンの中間負荷は2.5㎾です。4.0㎾型の中間出力でのCOPを6.0とした場合、期待できるエネルギー効率は5.6となります。
(6.0 x (100% – 13%)) / (100% – 6.5%) = 5.582

*2℃の線は除霜運転による効率の低下を考慮していません。JISC9612では外気温度5.5℃~-7℃の範囲では除湿運転による効率低下を考慮する必要があります。効率低下は外気温度-7℃で0%、2℃で約5%、5.5℃で最大の約7.5%となります。

「中間出力」を聞いたことが無い人が殆ど思います。メーカーの製品カタログに記載されている情報は下表の通りで、中間冷暖房出力・消費電力は開示されていません。APFは冷暖房での合計値です。開示されていませんが、中間冷暖房出力・消費電力がAPFに最も影響する指標です。上のグラフは下表の開示データを使って推測したものです。中間出力のデータがあれば精度は相当上がりますが残念ながら手に入りません。

最小暖房出力(気温: 7℃)最小暖房消費電力(気温: 7℃)最小冷房出力(気温: 35℃)最小冷房消費電力(気温:35℃)
定額暖房出力(気温: 7℃)定額暖房消費電力(気温: 7℃)定額暖房出力(気温: 7℃)定額暖房消費電力(気温:35℃)
最大暖房出力(気温: 7℃)最大暖房消費電力(気温: 7℃)最大暖房出力(気温:35℃)最大暖房消費電力(気温:35℃)
低温暖房低温出力(気温2℃)低温暖房低温出力(気温2℃)
APF(通年エネルギー消費効率)
開示されているエアコンの諸元

小さめのエアコンを使った場合のエネルギー効率への影響

我が家の例ではベーシックモデルの場合、4.0kW型が良いと言う結論になりました。小さなエアコン、大きなエアコンを選んだ時の影響を検証します。下図はベーシックモデルの2.8㎾型と5.6㎾型エアコンの暖房負荷とCOP(エネルギー効率)を表したものです。COPは上図(温度別暖房出力と消費電力の関係)から計算しています。
5.6㎾型の方が2.8㎾型と比べ、すべての出力範囲で良い事が分かります。機器の仕様では2.8㎾型のAPFは5.7、5.6㎾型のAPFは5.0なので不思議に思うかもしれません。理由は効率を測る出力が違うからです。2.8㎾型の中間出力は1.8㎾、5.6㎾型の中間出力は3.35㎾です。この中間出力でのCOPは2.8㎾型は6.5、5.6㎾型は5.8です。5.6㎾型を2.8㎾型の中間出力(1.8㎾)で運転した場合、COPは7.2となります。
我が家の代表的な暖房条件で2.8㎾型と5.6㎾型をそれぞれ運転した場合、COPは5.0と6.2となります。
5.6㎾型の方が2.8㎾型より効率が24%改善します。
APFだけを見て小型機種の方が大型機種より効率が良いと言う主張を良く聞きますが、決してそうではありません。中・大型機種を低負荷(低出力)で運転した方が小型機を中、高出力で運転するより効率は高くなります。


中間出力で判断すると4.0㎾型が適切と言う結果が出ましたが、より大きな5.6㎾型を使うメリットはあるのでしょうか。
ベーシックモデルに関しては「Yes」です。メーカーに関わらず、4.0㎾型ベーシックモデルの効率は低く設定されているからです。これは技術的な問題ではなく現行省エネ基準が原因です。下図はエアコンの省エネ目標基準です。グラフから分かる様に3.2kW型~4.0㎾型の目標APFは、より大きい5.6㎾型より低く設定されています。これが原因でメーカーはベーシックモデルに関しては性能が高いエアコンを出していません。4.0㎾型より大きい出力で高いAPFを達成している5.6㎾型の方が相当効率が高いのです。3.6㎾型、4.0㎾型の目標基準がなぜ低いかは分かりません。私が検討したメーカーのベーシックモデル4.0㎾型と5.6㎾型は多くの共通点(同じコンプレッサー、同寸法の室外機)を持っています。なぜか4.0㎾型の冷媒充填量が3.6㎾型、2.8㎾型より少ない事が気になります。能力が高い室外機と、小型機種と同じ室内機を組み合わせているのかもしれません。あえてAPFを4.9にとどめ、コストを抑えるためかもしれません。理由はともかく5.6㎾型の方が我が家の代表的な暖房条件では大分高い効率で運転できるはずです。
2027年から有効になる新しい目標基準ではこの歪な部分が変更され、4.0㎾型までのAPF目標は6.6となりました。

高性能エアコン

ベーシックモデルでは5.6㎾型がエネルギー効率上適していると言う結論になりました。
高性能エアコンの場合はどうでしょうか。前の図で、中・大型機を低出力で運転すると効率が良くなる事を示しました。高性能エアコンはこの方法でエネルギー効率を改善しています。
下図は数種類のエアコンの暖房出力と消費電力の関係を示したものです。ベーシックモデルの5.6㎾型と高性能モデルの2.8㎾型が良く似ている事が分かります。両機種の仕様も良く似ています。屋外機に関しては、大きさと圧縮機の型が一緒です。室内機に関しては高性能モデルの方が大きく効率が高いはずです。ベーシックモデルの方が下図で効率が高く見えるのは近似線(推測)の誤差のはずです。実際には室内機の性能が良い分2.8㎾型高性能モデルの方が5.6㎾型ベーシックモデルより若干エネルギー効率が高いはずです。

  • 我が家で使っている室内機1台運転のマルチのエネルギー効率が低いですが、現行の2.5㎾型ベーシックモデルと変わりません。
  • 現行の室内機1台運転のマルチも3kW以下の暖房負荷では変わりません。3㎾以上で違いが出てくるのは送風量の違いが主な理由です。
  • 2.2㎾型高性能モデルでは効率が良くなります。
  • 2.8㎾型高性能モデルでは効率がもっと良くなります。
  • 4.0㎾型高性能モデルの効率が最も良いですが、3㎾以下の暖房負荷では5.6㎾型ベーシックモデル、2.8㎾型高性能モデルとそれ程変わりません。
  • 室内機2台運転の現行マルチも高いエネルギー効率を示しています。マルチエアコンの室外機は5.6㎾型ベーシックモデルと同等で、室内機2台で高性能モデルの室内機と同程度の性能を発揮しているからです。室内機を2台に分散する事には多くの利点があります。1台当たりの送風量が少ない為、設置場所をそれ程気にする必要がありません。暖房がより均一になります。残念ながら制御に問題があるようです。マルチエアコンと言えども、室内機はそれぞれ独立した空間を冷暖房するよう作られています。2台で同じ空間を冷暖房するようには出来ていません。制御が上手く出来ないと、「低出力→高出力→低出力」の変動が大きくなり、効率が落ちてしまう可能性があります。

最終選択肢と結論

最終的に選択肢に残った4機種を5項目で5点満点の評価をし、5.6㎾型ベーシックモデルが最も適していると言う結論になりました。僅差で2.8㎾型高性能モデルが続きます。4.0㎾型高性能モデルはエネルギー効率の点では魅力的ですが、想定される暖房出力範囲では大きなメリットは無く、風量が大きすぎます。
残念なのはマルチエアコンです。既存配管がある我が家では一番簡単な置換えになりますが、室内機2台で同じ空間を適切に暖房する事は難しいと言う結論に達しました。本来は最も簡単(単純)な制御のはずですが、メーカーはその様な使い方を想定していないようです。

選択肢エネルギー効率 風量・騒音 冷媒量 大きさ 小出力運転
制御
合計点
5.6㎾型
ベーシックモデル
4.04.04.04.04.020.0
2.8㎾型
高性能モデル
4.53.54.03.04.019.0
4.0㎾型
高性能モデル
5.02.03.03.04.017.0
室内機2台
マルチエアコン
4.05.02.05.00.0評価外

20年前でも結果は同じ

エアコンを買い替えるならば5.6㎾型ベーシックモデルが総合的に一番高い評価になりました。我が家の代表的な暖房条件で期待できる消費電力削減は約28%です。もし20年前に同じ手法で機種を選んでいたらどの程度のエネルギー削減を出来ていたかを検証してみました。20年前の機種と2021年製5.6㎾型ベーシックモデルと2022年製4.0㎾型高性能モデルの比較です。
2002年製4.0㎾型と5.0㎾型ベーシックモデルの性能は2021年製5.6㎾型ベーシックモデルに劣りますが、2002年製5.6㎾型中性能モデルと4.0㎾型高性能モデルは同程度の性能を持っています。正しい機種選定を20年前にしていれば、今と同じ結果を出す事が可能だったのです。
悪く言えばこの20年間の効率改善は殆ど無かったと言う事です。よく言えば20年前までに革新的な改善が達成されたと言う事です。
【注意】
性能を良く見せるため、実使用時には使えない大風量で性能試験をしていた事が2007年に発見されました。2002年頃からメーカー数社が始め、2004年には殆どの会社この「爆風モード」による試験を取り入れていたようです。数社はこの慣習を2009年頃まで続けていた様です。下図で取り上げた2002年モデルの性能が「爆風モード」を使って実際より高く見えている可能性はあります。
2002年モデルの性能曲線は最小、中間、定額時の出力と消費電力を使って作成しました。メーカーにもよりますが、2002年~2004年のモデルに関しては中間出力時の性能データが公表されていました。最も興味がある中間出力付近の性能が正確に分かります。2005年以降のモデルでは中間出力性能が公表されていない為、最小、定額、最大出力時の性能データで性能曲線を作成しました。

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