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エアコン一台の全館連続暖房を試してみて(1)

ATPSでの記念すべきブログ一号となります。19年ほど前に建てた我が家の冷暖房の話です。
衝動的に土地を買ってしまい、知識は限られ、準備もないまま家を建てることになりました。
多くの方々と同様、家族で住宅展示場を歩き回り、気に入った意匠と間取りのモデルハウスのメーカーと話しながら、的を絞っていきました。
知識が乏しかったため、断熱性能や設備に関してはメーカーの提案を受け入れるだけです。
ここまではごく一般的な経緯ですが、変なこだわりが、当時としては珍しい、エアコン一台で全館連続暖房が可能な家を誕生させました。

無謀な二つのこだわり: 木製窓、玄関から直接リビング

欧米での生活が長かった事もあり、極力開放的な間取りを望みました。実際多くのモデルハウスも現実離れしたオープンな間取りが多かったので、自分達の希望は普通だと勘違いしていました。住んでいた古い賃貸マンションの窓は単層ガラスのアルミサッシで、冬は冷たく結露するだけでなく、見た目の悪さも気になっていました。今のアルミサッシは良くなっていると思いますが、当時は築30年のアルミ枠の表面処理は劣化し、酸化による白い粉を吹いていました。当時(20年前)は意匠性が高い輸入木枠窓を採用したモデルハウスが結構あり、国産窓は引違いが主流で魅力を感じませんでした。「ないものねだり」と思いますが、私にとっては木枠窓が未来を感じさせてくれました。ちなみに当時東京で樹脂枠窓を提供する国産ハウスメーカーは無く唯一カナダからの輸入住宅が樹脂枠窓を使用していましたが、意匠性が低く魅力を感じませんでした。木枠窓は譲れないとなりましたが、値段を聞くと目玉が飛び出る様な見積ばかりです。あきらめかけた頃に偶然出会った北欧輸入住宅が良心的な見積を提示してくれました。フィンランド北極圏のパインはきめが細かく、一目惚れでした。今は窓のU値や日射取得率に興味が行きますが、当時は一に二にも見た目が重要だったのです。

たまたま手に入れた高気密高断熱と開放的な間取り

このハウスメーカーは高気密高断熱を最大の売りにしていたのですが、私の知識と好奇心が乏しかったため、それ程興味を持ちませんでした。夫婦共々一番の関心事は間取りでした。出来上がった家は廊下が無く、殆ど仕切りが無い間取りです。玄関を兼ねた1階のリビングと、同じ大きさの2階ファミリールームが吹き抜けでつながった大きな空間が出来上がりました。この空間をどの様な設備で、どの様に冷暖房するかは考えもしませんでした。なんとなく各部屋にルームエアコンをつけると勝手に想像していただけです。関心があったのは見た目で、壁付けではなく、モデルハウスの様な天井付けにしたいと思いました。最終的には、2台のマルチ屋外機に6台の室内機を設置しました。内3台の室内機はそれぞれリビング、リビングとつながったダイニングキッチン、2階のファミリールームです。後から判明しますが、設備過剰でお金を無駄にしてしまいました。
我が家は当時としては高い断熱性能を持っていました。壁には170㎜厚のロックウール、天井裏は300㎜の吹込みロックウール、床は110㎜のフェノールフォーム、窓にはアルゴンガス入りLowE3層ガラス。一応ではありますが換気は国産熱交換器型第一種換気システムが標準で、C値も実測で1.0 cm2/m2でした。この間取りを当時の一般的な断熱仕様で建てていたら、恐ろしいことになっていたと思います。

部分間歇冷暖房での最初の数年間

住み始めてから最初の数年間は何も疑問を持たずに部分間歇冷暖房をしていました。寒いと感じた時にリビングの暖房を運転し、寝る前に停止します。寝室も居室時に必要に応じて運転し、就寝時に停止していました。冷房も同様ですが、寝室の冷房は就寝時もつけっぱなしです。賃貸マンションでも冷暖房はエアコンで、電気代は暖房で一冬4万円、冷房はひと夏1.5万円程でした。戸建に引っ越した後は暖房費は年間3万円、冷房は年間1.5万円になりました。
冷暖房費はそれ程変わりませんが、住環境は全く違います。今の戸建は床面積165m2の総2階建ですが、マンションの床面積は半分程度で、廊下、水回りや北側の和室は無暖房に近い状態でした。戸建は部分間歇暖房時、どの場所も16~17℃を下回る事はありませんでした。床暖房はありませんが、それ程冷える事もなく、冬に玄関を多少開けても突然寒くなると言う経験もありませんでした。
不満な点もありました。

  • 暖房時にリビングのエアコンの風が体に当たった時の不快感。
  • 換気システムの吹出し口の下にいる時の不快感。
  • 冬の入浴後、浴室の窓の下枠が結露し、カビが発生し始めたこと(浴室の窓も木枠窓です)。

全館連続冷暖房を進められ、清水の舞台から飛び降りる覚悟で試してみる

家に住み始めてから数年後にハウスメーカーの担当営業マンが「この家は本来、連続冷暖房運転が適している」と教えてくれました。数年間、その事が気になっていながら、冷暖房費が激増する事が心配で実行できませんでしたが、好奇心に負け、2008年に試してみました。冬はリビングの室内機の連続運転、夏は2階のファミリールームの室内機の連続運転です。室内温度は20℃を下回る事は無くなり、朝方の20℃から午後2時の最高22℃の間で推移するようになりました。家のどこに行っても温度差は1℃以内です。夏は連続運転によって湿度が安定するようになりました。
「清水の舞台から飛び降りる」と言う程恐れていた電気代は殆ど変わりませんでした。暖房時は少し増えた印象ですが、そもそも年毎の変化の方が大きいのです。一般的な間取りの戸建では、全館連続暖房をすると暖房負荷(暖房費)2~3倍になります。我が家の暖房費が殆ど変わらなかった理由は、殆ど仕切りが無い為、部分間歇暖房ではなく、全館連続暖房に近い全館間歇暖房になっていたからです。言い方を変えると部分間歇暖房は細かく仕切られた家では暖房負荷を減らす効果がありますが、開放的な間取りでは効果は減少します。開放的な間取りを実現するには、大掛かりな暖房設備(セントラルヒーティング)の導入か、断熱性能の改善が必要になります。
全館連続冷暖房を始めてからで改善したことは、

  • 朝の室内温度上がり(16℃~17℃から20℃)、床も温かくなった。
  • 寝室の冷房を使わなくなり、眠りが良くなった。

反対に冬の室内乾燥は多少悪化しました。子供が小さい事もあり、積極的に加湿を行うようになりました。又、朝の室内環境が改善したら、台所の流し近辺の床が冷たい事に気付きました。以前から持っていた3つの不満点は解決されないままでした。

本格的な室内環境と電力消費の計測

エアコン1台での全館連続冷暖房が可能であり、想像以上に経済的である事が分かり、理論的に理解したいと言う欲求が強くなりました。2011年の原発事故をきっかけに省エネ意識が強くなり、エネルギー消費を減らしながら住環境を改善し、同時に電力料金値上げ分を節約する事に挑戦してみる事にしました。知識をつけるために本を読みあさり、多くの勉強会に参加しました。しかし他から得た知識はしょせん知識にすぎません。自分の家で一体何が起きているかを理解するために徹底的に我が家を観察する事にしました。この観察は約10年続いています。
ブログの図(グラフ)は観測結果のほんの一部です。次のブログで説明します。

常識への挑戦

計測だけでは意味がありませんし、面白くもありません。計測と同時に今まで「常識」と思っていたことを問い直し、やり方を変えてみました。一例ですが、換気扇での浴室乾燥をやめました。
今までは浴室を乾燥させる為、浴室の扉を閉じて換気扇を2時間ほど運転していたのですが、今は夏以外は換気せず、扉を開けています。その方が浴室が早く乾燥し、湿度を低く保てるからです。浴室の窓枠は結露しなくなり、カビの発生も収まりました。この事に関してはブログで詳しく説明します。

まとめ

殆どの人にとって「家」や「住み方」は「食事」と同じくらい無意識な物だと思います。
ご飯とみそ汁を毎日の様に食べますが、その事を深く考え、他の選択肢を考え、比較検討するような事は殆どありません。
違ったお米やお味噌を試すことはありますが、豆やパンを主食に変えようと思う方は殆どいないと思います。
自分の家造りを振り返ると、深く考えていなかったことは明らかです。過去の経験や思い付きが選択に影響しただけです。仮に自分が大きくて古い木枠窓の家で育ったなら、アルミサッシが必須になっていたと思います。個室が多い間取りを望んでいたかもしれません。
計画的に家の仕様を決めたわけではありませんが、全館連続冷暖房を実践してみるとその心地良さに驚きました。押入れの中も湿気ません、布団も殆ど干す必要がありません。
巷には住環境を改善し、生活を便利にすると言う家電や設備が沢山出回っています。私達はふんだんに金を使った宣伝に影響され、気が付くと、家がこれらの製品であふれています。
住宅の基本性能(断熱性能、気密性能)を改善し、間取りや窓の配置を工夫し、家の「運転方法」を最適化すれば、少ない設備とエネルギーでより快適な生活が可能です。
日本ではまだ普及していない考え方ですが、ヨーロッパでは常識となりました。車や服と違い、家は一生の買い物です。建てた時から時代遅れになる事は避けなくてはなりません。これからこの20年間で分かった事を出来る限り共有していきたいと思います。

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