換気システムを提供しているメーカーはカタログなどに換気システムのイメージ図を記載しています。
会社を問わず、多くの共通点があります。この一般的な給排気口の配置は理にかなっているのでしょうか。
洗面所からの還気は理にかなっているか
熱交換器型第一種換気を前提にしていることをご理解ください。
メーカを問わず、寝室、居間には新鮮な空気を供給する給気口、洗面所、トイレ、廊下から空気を吸い出す還気口を設置するのが共通しています。
イメージに出てくる家の間取りは、部分間歇冷暖房を前提とした一昔前の間取りです。全館連続冷暖房であればもっと開放的な間取りになると思います。
私達が今の家に住み始めた頃は、浴室の扉は通常閉め、入浴後は扉を閉めた状態で浴室換気扇を数時間運転していました。浴室窓も木枠で、冬になると下枠が結露し、カビが発生するようになりました。浴槽には災害対策として常時水をはっています。浴室換気扇の排気口が7~8年後には完全にホコリで詰まっていた事を前回のブログで説明しました。この事も窓枠の結露に多少影響していたかもしれませんが、目詰まり問題を解決した後もあまり改善しませんでした。
試しに浴室換気扇を使うのをやめ、浴室と洗面所の扉を開けておくことにしました。
浴室は以前より早く乾くようになり、窓枠は結露しなくなったのです。
梅雨時と冷房期間には浴室換気扇を使いますが、それ以外は使いません。浴室扉は梅雨時と冷房期間を含めて開けています。ちなみに我が家の洗面所には換気扇は無く、換気システムの給気口があります。
浴室の扉を当初閉めていた理由は、それまでの習慣に従っていただけです。浴室換気をしていた当時は、冬には加湿器を積極的に使っていました。今考えるとおかしな話ですが、居室を加湿しながら浴室の大切な湿気を換気扇で外に捨てていたのです。換気扇に余分な電気を使い、湿度で濡れた埃が換気口の網を詰まらせていたのです。
入浴後にスクイージーを使って濡れた壁と床から簡単に水を落とし、浴室と洗面所の扉を開けておくと、1~2時間後には浴室は乾いています。開いた浴室と洗面所の扉を通して、浴室の空気は家中に流れていきます。この空気の流れは想像以上に大きい事が二酸化炭素濃度測定で分かっています。
浴室の扉を閉めておくと、浴室の温度が少し下がり、風呂蓋の隙間から水蒸気が漏れ、湿度が上がってしまいます。浴室の湿度が上がり(相対湿度80%弱)、窓枠で結露が起きてしまうのです。扉を開けていると温度と湿度は他の場所と同じになります(21℃、40%)。浴室から家中に広がった水蒸気によって他の場所で結露が起きる事もありません。暖房中は特にですが、開放的な間取りでは、家の中の空気循環は想像以上に大きく、温度も均一なので、湿気が何処かに滞留する事はありません。暖房を使わない春や秋も同じです。
浴室の換気扇を回すのは梅雨時と冷房期間だけです。この時は扉を半開きにして2時間ほど換気します。浴室の湿った空気を家の中に戻すと、当然ながら湿度が上がってしまうからです。
我が家で実行している事を上の換気システムで行えば、浴室からの湿った空気が洗面所で吸い上げられ、熱交換器に入ります。温度(顕熱)と湿度(潜熱)の両方を交換する全熱交換機であれば、一定割合の湿度(50~80%)は室内に戻されますが、残りは外に捨てられてしまいます。湿度の高い空気を全熱交換素子に入れる事は良い事ではありません。素子の湿度が高くなると、内部結露や凍結の原因にもなります。浴室から還気出来る特殊な熱交換素子を使用している機種もあるようですが、そもそも浴室や洗面所から還気するメリットは少ないと思います。洗濯の際に発生する湿気を出したいと言う要求もあるかもしれません。しかし、洗面所の扉さえ開けておけば、すぐに家中に広がってくれます。
梅雨時や冷房時は浴室の換気扇を使って湿気た空気を直接外に出します。熱と湿気を出す最も効率的な方法だからです。
メーカーが洗面所からの還気を推奨する理由は何なのでしょうか。推測ですが、第三種換気を踏襲しているからではないかと思います。
熱交換器型第一種換気は第三種換気の影響を強く受けています
熱交換器型第一種換気はそもそも全館連続(冷)暖房が前提と言う事を前回のブログに書きました。メーカーはこの大前提を説明していないと思います。全館連続冷暖房を採用する家の多くは開放的な間取りになっています。しかしながらメーカーの製品資料は部分間歇暖房を前提とした旧来の細々とした間取りに第三種換気と同じ換気方法を採用しています。
上の図は国内メーカーのカタログで紹介している第三種換気の例です。肌色の空間は換気空間でない部分です。
居室の給気口から外気を入れ、ドアのアンダーカットを通し、廊下を経由して1・2階トイレ、1階洗面室、2階廊下から換気扇(パイプファン)で排気する考え方です。
「第3種換気方式の特性上、気密性の高い住宅でないと換気効果が得られない場合があります」と言う但し書がつけられています。
この但し書自体に異論はありません。仮に1階廊下に大きな隙間があれば、外気はLDや和室の給気口からではなく、廊下の隙間から室内に入り、洗面所やトイレのパイプファンで排出されると言う事です。浴室窓と扉を開けていても同じ事が起きます。但し書は間違っていないのですが、住宅の気密性基準が無い日本では正式な「高気密」の基準が無いので、メーカーが言う高気密とはどの程度の性能か分かりません。但し書を入れるのであれば、どの程度の気密性が必要かをはっきりさせるべきと思います(C値2を上限としているメーカーはあります)。
第三種換気に影響を及ぼすのは住宅の気密性だけではありません。風(風速、方向)、内外温度差も大きく影響します。北風の時は、ファンからの排気量が減り、換気量が減ります。冬になると内外温度差が大きくなり、室内の温かい空気が2階から出ようとし、外の冷たい空気が1階から入ろうとします。結果的にLD、和室からの吸気量が増え、2階寝室からの吸気量が減ります。温度差と北風を合わせると、2階寝室の吸気量はますます小さくなります。
強制排気・自然吸気の第三種換気に対して、第二種換気は自然排気・強制吸気なので、居室への外気供給はある程度安定します。しかし、風の影響は同じように受けるので、北風の時はトイレの空気が逆流する可能性があります。気密性が低い場合はトイレや洗面所から排気されない場合もあります。冬の寒い日にリビングの吸気ファンを回し、積極邸に外の冷たい外気を入れる事は多分受け入れられないと思います。
大半の住宅で採用されている第三種換気では、多くの場合、上図の様に空気は流れていない事を認識すべきと思います。冬には居室の給気口の多くが半分又は完全に閉められてしまうのが現実と思います。この場合、外気は換気扇や隙間から供給され、昔の隙間換気とあまり変わらないと言う事です。
第三種換気も以前の換気の影響を強く受けています
メーカーが提案している熱交換型第一種換気は第三種換気の影響を強く受けていると書きました。非暖房空間で、水蒸気を多く出す浴室、洗面所と、臭気が出るトイレを積極的に換気する事は合理的と思います。この手法は第三種換気で始まったわけではなく、それ以前から標準的でした。浴室、洗面所、トイレの窓は開け、湿気や臭気を含んだ空気を積極的に外へ出す手法です。これらの空間の扉は閉められ、廊下や居室への湿気、臭気、冷気の侵入を減らすと言う手法です。居室の換気は定期的に窓を開けたり、欄間窓によって行われていました。
欄間窓は雨が入りにくく、ある程度の防犯性を持っていました。台所、洗面所、トイレにはプライバシーを守り、防犯性が高く、雨も入り難くなっている摺りガラスのルーバー窓が多く採用されました。ルーバー窓の登場以前は摺りガラス入り引違い窓と防犯格子の組合せでした。
24時間換気設備の義務化によって欄間窓は自然給気口に置き換えられ、ルーバー窓はすべり出し窓とパイプファンに置き換えられました。
浴室、洗面所を積極的に換気する理由は?
この質問に対して多くの方々は「当たり前」と答えると思います。
冬には水蒸気が窓や壁に結露するし、浴室も同様で、放置すればカビが繁殖すると言うのが理由です。換気を積極的にすることで、なるべく乾燥させると言う事です。浴室、洗面所の扉を開けておくと、湿気が廊下に入り、そこから和室などの居室に入り、押入れの中の布団などが湿気る原因となってしまいます。
断熱性が低い家で、部分間歇暖房をしている場合は合理的な換気方法です。断熱性能がある程度改善した今の新築住宅でも、部分間歇暖房をしている限り、非暖房空間(廊下、洗面所等)の温度は12~13℃程度で、窓の温度は10℃程度です。布団が入った押入れも同じような温度です。空気中の水蒸気は、これら温度が低い所で結露します。温度が高い居室(リビング)を加湿すると、水蒸気の一部は和室の押入れの布団で結露し、一部は洗面所の換気扇から外へ排出されます。
一生懸命加湿しても居室の湿度が期待通りに上がらず、望んでいない所で結露する悪循環が起きます。最終的には給気口を閉じ、換気を犠牲にして、温度と湿度を高める事となります。第三種換気で24時間換気をしているはずが、結局居室の給気口を閉め、24時間換気以前の換気に戻ってしまっている家が多いと言う事です。
高気密高断熱住宅で、全館連続暖房をしている開放的な間取りの場合は、結露や押入れの湿気は起きません。壁、窓の内面、押入れの温度が高い為、結露が起きないからです。家の中の水蒸気が結露によって失われない為、湿度を高くすることが可能です。浴室や洗面所で湿気が滞留しないように、積極的に換気する事は全館連続暖房の家でも重要です。部分間歇暖房との違いは、外に換気するのではなく、内に換気すると言う事です。浴室、洗面所の空気を隣接空間(廊下等)に出す換気扇は必要ありません。扉を開けていれば自然対流によって十分換気されます。信じがたいかもしれませんが、扉からの換気量はパイプファンの10倍以上あります。
我が家では冬の室内湿度を上げるために室内干しも積極的に行います。室温が21℃で湿度が40%なので洗濯物はよく乾きます。乾燥機や浴室乾燥機は使いません。
全館連続暖房を前提とした熱交換器型第一種換気は、部分間歇暖房を前提とした第三種換気とは違います
第一回目のブログに書いた様に、高気密高断熱住宅に住み始めた当初は「家の使い方」が分かっていませんでした。この為、今まで身に着けた習慣をそのまま実践していたわけです。
この20年近くの期間に、自分の持っていた多くの先入観が覆されました。分かった事は、住み方の違いを理解すれば、高気密高断熱住宅の良さを引き出せると言う事です。
日本の気候は一般的に「高温多湿」と言う表現で表されています。湿度が高いので湿気やカビを防ぐために、風通しを良くしなくてはいけないと多くの人が考えています。梅雨時から夏にかけての3.5ヶ月は確かにそうですが、晩秋から早春までの5ヶ月間は乾燥しています。この乾燥している期間でも、家の断熱性が低く、部分間歇暖房をしている為、温度が低い所(洗面所、浴室、押入れ、本棚の後ろ側等)で結露が起きます。結局、春と秋以外は湿気に悩まされているのです。伝統的な対処方法は、換気を沢山する事です。
全館連続暖房をしている高気密高断熱住宅では、結露は起きません。室内温度が高く保たれ、壁、床、天井、窓の断熱性が高いので、内面温度も高く、結露が起きません。結露が起きないと、水蒸気は室内空気の中に留まる事が出来るので、少ない加湿でより高い湿度を維持することが出来ます。窓から入る太陽光や生活熱で暖房を賄うのと同様、加湿も極力生活で出るものを使います。浴室で発生する水蒸気や洗濯物が乾燥する時に出す水蒸気の有効活用です。
全館連続暖房をしている家は室内温度が高い為、どうしても相対湿度が下がってしまいます。貴重な水蒸気を外へ出さない為に、全熱交換機は有効な設備です。ドイツのパッシブハウス研究所は、潜熱(水蒸気)の交換率は80%程度が理想的と言う結論を出しています。交換率を80%以上にすると室内湿度が上がりすぎ、湿度を下げるために必要以上の換気をしなくてはいけなくなるからです。換気量を増やせば、ファンを回す電力消費は増え、換気による熱損失も増え、暖房負荷が増えます。
高気密高断熱住宅で全館連続暖房をすると、冬場の湿気問題から完全に開放されると言う事です。ちなみに低断熱、中断熱の住宅を全館連続暖房した場合は、湿気や結露問題から解放されません。外皮(外壁、床、天井、窓)の断熱性能が低い為、表面温度が低く結露が起きてしまいます。外壁に面した押入れや本棚の裏も同じです。欧米ではこの様な建物が未だ多く、湿気や結露に悩まされています。冬場の湿気、結露問題は日本特有の問題ではありません。
近年、建物の高気密化によって結露や湿気の問題がより深刻になっている面もあります。合板、石膏ボード、アルミ・樹脂サッシの普及で建物の気密性はそれなりに改善しました。コンクリート建物も気密性に優れています。建物を高気密にすればするほど、室内湿度を高くする事が可能になります。気密性が高くても断熱性能が低いままだと表面温度は上がらず、湿度が高い分、より結露しやすくなります。結露を減らすために、せっかく高気密にした建物の窓を開け、気密性を下げることになります。
高気密高断熱化と全館連続暖房によって冬場の湿気と結露の問題が根本的に解決されたにもかかわらず、メーカーは熱交換器型第一種換気で、第三種換気と同じ換気方法を提案しています。高気密高断熱の良さを十分引き出せないだけでなく、問題の原因にもなりかねません。湿度が高い洗面所からの還気は、熱交換素子がカビたり、凍結したりする可能性を高めます。湿気が高い空気は埃を濡らし、送風ファンの羽に付きやすくします。この問題は換気設備に限った事ではありません。エアコンでも同じ事が起きています。
我が家では夏の2ヵ月半は2階ファミリールームのエアコンを常時運転し、冬の3か月半は1階和室のエアコンを常時運転します。
送風ファンの汚れ方は全く違います。冷房に使うエアコンのファンは数年に一度掃除しますが、黒いホコリがこびり付いています。細いブラシで数百個ある羽一つ一つにこびり付いたホコリを取る必要があります。天井型エアコンの為、カバーやドレーンパンを外すだけで一苦労します。出来れば毎年掃除したいのですが、作業が大変なので数年に1回になっています。
暖房専用に使っている1階和室エアコンの送風ファンは殆ど汚れません。冷房時と暖房時では汚れ方が全く違うのです。
ホコリやカビが付きやすいと言われている熱交換器は冷房専用機でも奇麗です。一般的な間歇運転と違い、常時運転では熱交換器が常に結露水で濡れている為、ホコリが結露水と一緒に流れ落ちているからです。熱交換器は常時低温に保たれている為、カビが繁殖しにくくなっています。
間歇運転の場合はエアコン内部が10℃+から30℃+の温度変化を繰り返す為カビの繁殖を助けます。冷房運転時に熱交換器が濡れ、冷房停止時に内部温度が上がり、カビが繁殖しやすい温度になるからです。
10年程前からフィルター掃除機能付きエアコンが一般的になり、最近は熱交換器を結露水で洗浄するエアコンが出始めています。フィルターは1ヶ月に1回掃除すれば良いので、あまり必要性は感じません。熱交換器の洗浄は常時運転していれば同じことをしていることになり、必要性を感じません。最も必要なのはファンの洗浄です。究極は自動洗浄かもしれませんが、簡単に取り外せる機能があれば年1回の洗浄はそれ程苦にならないと思います。同時にエアコン内部も掃除出来ます。年に何台も洗浄する場合は大変ですが、我が家の様に冷房をエアコン1台で行っていればそれ程大変ではありません。設備を減らす大きな利点です。
排気ファンの羽を簡単に取り外せる製品があるのに、呼吸する空気を扱うファンには同じような機能が無い事に疑問を感じます。1世帯当り3台以上普及しているルームエアコンで、内部洗浄が難しい現状を考えると、メーカーは換気システムの改善の必要性をそれ程意識していないのかもしれません。シックハウスの対策として導入されている換気システムを新たなシックハウスの原因にしない為にもエアコンや換気設備の改善を希望します。
メーカーの換気設備カタログを見ると、工務店にアピールする施工のしやすさと、消費者(施主)の目を引く機能に重点を置いている印象を受けます。点検、清掃、修理のしやすさの優先順位は低いと言う事です。行政や消費者が知識を付け、「本当」に大切な機能を認識すれば、メーカーは自ずと満足する製品をつくります。
私が見る限り、不必要な機能が増え、本当に必要な機能が実現していません。
このブログでは問題提起だけをしてしまいました。
次のブログでは今出来る事を提案したいと思います。